第1章 1
「待ってたの。ホントよ?
でも、もうダメ。あたしはあいつに見られちゃった。あたしもあいつを見ちゃった。もうあんたのこと、まぶしくは見えない」
鳳は、そんなこといったあたしを、素直に解放してくれた。あんたも損する性分よね、ホントに。
「あたしは行く。もう戻れない。あたし、わかったの」
「そうですね」
「あんたももう戻れない」
「そうですね」
「……でも、
もう一度そっくりの関係になることくらい、別に難しいことじゃないよね?」
「そうですね」
一回目は寂しげに、二回目は決意するように、そして三回目は、優しげに呟かれた。
鳳の声。
そうですね、という響きの、このうつくしさ。
やっぱりこいつはきらきら光るやつなのね、そう思った。もううらやましくはないけれど。
鳳は笑って、じゃあ、といって歩き出した。きっと振り返らないだろう。
そしてあたしも、あいつを追いかけに行かなくちゃ。
一度殻を破って外に出てみれば、もう光はまぶしくはないんだから。だからもうあたしは、殻の中にいる弱虫には戻れない。絶対に。
だから。いかなくちゃ。
* * *
「跡部!」
「アーン?」
あたしの声くらいわかってるはずなのに、跡部は、声をかけたら意外とあっさりこっちを振り向いた。
今振り向いた、その動き。
それであんたの運命決まったのよ、わかってないと思うけど。
だからあたしは、わざとすれ違いざまに続きを言った。
とても苦しかったのだけど、そんな胸とは裏腹にするりと出てきた言葉を、まるで投げつけるように。
「一回だけ言う。聞きたくなけりゃ聞かなくていいや。大好きよ。愛してる。」
「思い切り聞かせてんじゃねーか」
「そうとも言うなぁ。じゃね。もう見ない、きっとね」
「……おい、待て!ふざけんな」
ぐっと、一発で血が止まるくらい握り締められた左手首が悲鳴を上げる。でもあたしはそんな痛み黙殺して、くるりと180度ターンした。
そのままあたしも跡部も立ち止まる。