第1章 1
あたしはなぜここにいるんだろう、時々思うことがある。
自分が望んで受験し合格し通い始めたはずのこの氷帝学園、居心地の悪さも施設への不満も特別感じないこのすばらしい学校。
その中でただじっと窓辺にもたれかかりなにやら遠くを見て物思いにふけっているように見えるあたしを、からかうやつもはやし立てるやつもいないご立派なこの箱庭。
その中で、自分が望んで囲われているこの庭の中で、あたしはかりそめの脱出を夢見る。
なぜここにいるのか、なぜここにきたのか、そしてどこへ行くのか、どこへ行けるのか。
選ぶこと、選ばれていくこと、あるいは選ばれないこと、選ばないこと。
わざと端的で高尚に聞こえる言葉に直したそれは、ただのこどもの妄想だ。
「吉村先輩、またいつもの物思い?」
「そーなのよう、鳳ィ、どーにかなんないかなこの物思い」
いつもいつもいつもあたしはこうだ。
バカなふりをしていても実は頭がいいとポーズをつけてその仮面の下にあるのは本物の馬鹿の素顔。
結局与えられたもの以外のことを探すことのできない無能の素顔。
それでもここにいて、この氷帝学園にいて居心地の悪さを感じないあたし、劣等の苦しみを感じないあたしはあたし自身をひどくひどく憂鬱にさせて、そのくせ時にはその無能さを盾にさせようとさえ仕向けている。
こんなあたしは嫌いだ。
「いつもどこ見てるんですか」
「べっつにどこ見てるわけでもないけど、強いて言うならテニス部のコート。ちょうどよく見えるからさぁ」
「俺も見えます?」
「そーね、ノーコンかましてむちゃくちゃ言われてるとことかよく見える」
「うっわいやだなー」
あたしの、口からでまかせのその言葉を信じたのかどうなのか、そういうとこは見ないでくださいよと笑いながら言う鳳に、あたしは考えとくわと軽く返す。
いつもなら目も向けない鳳に目を向ければ、困ったような笑顔がこちらを向いている。
それじゃない。と、あたしの目が叫ぶようだった。
考える必要なんて、本当は少しもかけらもちっともすっかりきっぱりとない。
本当に見てるのは、本当はたった一人だ。