第1章 1
5年と半分、どっちかがどっちかを追いかけて歩いた、帰り道。
……あと、半年で、これも終わり。
ぎゅうって、胸が痛い。
どうしてかなんて。自分でも、わかってた。
「ん?シュウ、どっか痛いだーね?」
「なんで?」
「目ぇ赤いだーね」
「……別にっ」
こういう優しいとこ、だいすきだから。
息するみたいに当たり前に、慎也があたしの隣にいた時間が、なくなっちゃうなんて、無理。
「……どこの学校、行くの」
「なんだ、やっぱ聞きたいだーね」
「うっさいな、だーねのくせに」
「だーねとはなんだーね!……ルドルフだーね」
「あたしも行く」
じゃあ、いつもどおり、追いかければいいんでしょ?
ぐずぐずめそめそなんかしてやらない。慎也に指さして笑われる。
「はい?」
アヒルが豆鉄砲くらったような顔の慎也に、あたしも行くって言ってんの、ってもう一回の宣言。
「だから受験勉強教えて」
「いやいやいや、ちょっと待つだーね!
シュウ、今まで受験対策とかなんもしてないはずだーね!それで受験とか無謀だーね!」
「いいの!ルドルフ行くの!勉強は教えてくれるでしょ!?」
「いや、教えるのは別にいいけど、そういう話じゃないだーね……」
あーだこーだ言いながら、それでも慎也がヤダって言わないのをいいことに、どんどん押していく。
こういうとこで、ヤダって言わないのが慎也だもん。
そんで、あたしの勢いにあきれた顔してるつもりで、アヒル口がちょっとにやついてるのも知ってるから。
「あーもう、しょうがないだーね。
たしか8月の頭に説明会あるから、一緒に聞きに行くだーね。母ちゃんに言っとくだーね」
「おっけー。家も母さんに話しとく」
おっし、勝った。
足取りも軽く歩いてくあたしの後ろで、慎也がなんか早口で呟いてる。
「……まあ、シュウが一緒に来てくれるなら心強いだーね」
「んあ?なんか言った?」
「何でもないだーね!とりあえずそのしゃべり方何とかするだーね!素行も見られるだーね!」
「うぇーい」
「真面目に聞けだーーーーね!」
げらげら笑いながら逃げるあたしと追っかけてくる慎也。
これがもう3年続けられるなら、受験くらい軽く突破してやるし、って、あたしはあたしの中だけで、こっそり誓った。