第1章 1
「え、慎也中学受験すんの?」
幼なじみの突然の発言に、うっかりでっかい声をあげたら「声でかいだーね」ってにらまれた。
生まれたときからお隣同士の慎也とは、いつも一緒に帰ってる。
夏休み前最後の帰り道、最初はフライングで夏休みの宿題だいぶすませたもん、なんて慎也に自慢してただけだったのに。
「受験っていうか、推薦?みたいなやつだーね。テニスで誘われてるだーね」
「いや別にそんなんどっちでもいいけど。……そっち、いくの?」
「ん~~、たぶん?
まだちゃんと決めてないけど、行こうかなって思ってはいるだーね」
「……ふぅん」
興味なさそーに、どーでもよさそーに、って考えながらした返事は、力んだ鼻息みたいな音がした。
「ん?ん??聞きたいだーね?」
「べっつにー。慎也のこととかどーでもいいしっ」
「我慢は体によくないだーね」
気になってるのモロバレのあたしの態度に、慎也がここぞとばかり迫ってくる。ウザい。
「ていうか、別にシュウに隠すことでもないし、教えてやるだーね」
「教えて『やる』んなら言わなくていいですー」
超上から目線で話そうとする慎也にいーっ、てして、あたしはランドセルを鳴らして走った。
……行こうかな、だって。
慎也がそんな言い方するってことは、たぶんもう行く気でいるんだろうな。
どこに行くのかな、とか、誰に誘われてるのかな、とか、そんなこと、ほんとにどうでもよくて。
その時のあたしには、来年からは慎也とこうやって帰れないんだって、それしか頭になかった。
クラスが違ってても、部活が違ってても、小学校のうちは帰る時間なんてそんな違わなくて、いつだって、当然みたいに慎也と帰ってた。
あーだこーだ慎也とくだらないこと喋って、ケンカしたり、テレビやマンガの話したり、学校のこと喋ったり、あとケンカしたり、……ケンカしたり。
割とケンカばっかしてたけど、こうやって歩いて帰るのって、あたしたちにとっては「当然のこと」だと思ってたのに。
慎也にとっては、この「当然」は、ぽいって放り投げちゃっても全然平気なんだなって思ったら、
なんだか、ずしんってランドセルが重くなった。
「シュウ、待つだーね!」
お道具箱が入った手さげをがちゃがちゃ言わせながら、慎也があたしのこと追いかけてくる。