第1章 暗闇の中でも
ヒロインside
「今日はやけに月が明るいから、灯はいらねぇな」
煙管を吸いながらそう言い、吐く息で行灯の火を消した晋助は私を見て、たぶん、少し笑った。
「何見てんだ」
布団の上に座り込む私は、足の指を撫でながら目をそらす。
真新しい下駄の鼻緒はまだ足に馴染まず、駆け足で来るにはふさわしくない。
いついつに来る、どこどこで待ち合わせ、そんな、どんな恋人同士も当たり前にしている事は、私には望むべくも無く。
連絡があれば、飼い慣らされた犬の様に走って行くしかない。
鼻緒が擦れた部分の皮が少しむけている。
しかし、こんな傷とも言えない傷、死ぬの生きるのと戦う目の前の男からしたら、鼻で笑う以前のものだろう。
「おい」
呼ばれて顔を上げると、そのまま顎をつかまれて口付けをされる。
苦い煙管の味、入り込む舌は熱い。
「んっ…」
そのまま押し倒される。
いつもそうだ。柔らかい布団に落とすにもかかわらず、晋助は必ず私の背中に左手をあてがう。
「…はっあ…」
唇が離れて、待ちかねたように息をする私の太ももが、強く吸われる。
着物の襟元から手が入ってくる。
「や、いやぁ…やめ…」
嫌だ。と、良い。止めて。と続けて。
相反する言葉と本音は、行かないでと思いながら、笑って手を降る時と同じだ。
帯か解かれた。
あらわになった肌に、容赦なく唇が下りてくる。
「ん、んん…あ、んっ」
抑えようにも漏れる声に、唇は速度と吸う力を加速させ、指が私の体ごと加速させる。
くちゅっ…
私の体から響いた柔らかな水音に、晋助は濡れた人差し指を見せながら、満足そうな笑みを浮かべる。
「相変わらず感度が良いねぇお前さんは」
くちゅっ…
私の中に入る指は2本に増えた。
「1回イッておくか。久しぶりだもんなぁ」
言うなり、小刻みに動く指は、憎らしいくらい的確に、私の弱点を付く。
「あ、あ、あっん…はぁ」
知ってか知らずか、左薬指の根元まで入れられると、剣だこが秘部の入口に擦れて、その度に、蜜が溢れ出す。
「んっ…あ、ん、あ、あぁっ」
気持ち良さに、一瞬頭が真っ白になる。
「イッたか?」
聞かれたが言葉は出ない。しかし、赤くなった頬と流れ落ちる涙が答えだ。