第46章 巣立つ想いと、残る想い
自室に戻り、小さなテーブルに空いた小皿と酒瓶を置くと、モブリットはブーツを履いたままベッドにドサリと仰向けに倒れ込んだ。
「はぁ…」
認めてしまうと途端に溢れてくるタリアへの恋心。
それと同時に自身の中に凛と佇むハンジへの敬愛と忠誠心。
モブリットはタリアへの想いを自覚しても、ハンジを敬愛する気持ちがブレる事は無かった。
長い間、ハンジを敬愛すると共に寄せていた慕情。
それは複雑に絡み合い、癒着し、切り離せないモノだと勝手に思い込んでいたモブリットであったが、素直に自分の気持ちに向き合ってしまえば、それはいとも簡単に切り離せてしまった。
あれだけ悩んで悩んで、一大決心をし、ハンジの部屋を1人で訪ねたモブリットであったが、それは全くの杞憂であった。
でも、それはきっとハンジが自身の気持ちと向き合えと、心を動かす様な言葉をかけてくれたからだ。
しかしそれと反面に、これからも副官として居続けてくれるかと憂いを帯びた視線で問いかけられた。
真っ暗な夜空で微笑むように光る三日月を眺めながら、視線だけをモブリットにむけて。
あんなに今にも壊れてしまいそうな儚いハンジを見たのも初めてだったが、そんな姿を見ても、モブリットがハンジに向けたのは敬愛と忠誠心だけだった。
以前、ハンジへの想いを拗らせた時の様な男の欲望の様なモノが込み上げてくることはなかった。
「まったく…あなたって人は…」
天井を仰ぎながらポツリと呟く。
おそらくハンジには最初から全て見透かされていたに違いない。
ハンジはモブリットから自身を突き放す様な事を言いつつも、敬愛と忠誠心はしっかりと残る様に仕向けたのだ。
「もう…あなたには敵いませんよ…」
少し悔しいが、仕方がない。
それが、敬愛する我が分隊長なのだから。
モブリットはそっと目を閉じるとタリアの事を考えた。今度はいつ会えるだろうか。今すぐでなくても、この気持ちをいつか伝える事ができるだろうか。
そしたら、自分のこの短し調査兵としての人生も、色濃く、鮮やかに、悔いの残らないモノになるのだろうか。
タリアを愛する事を許されたモブリットは、ほんの少し、胸が踊った。
でも、それと同時に深く胸に刻む。
我が敬愛するは、調査兵団第4分隊分隊長ハンジ・ゾエ、あなただけであると…