第46章 巣立つ想いと、残る想い
コチコチと時計の針がヤケにうるさく響く部屋で黙って見つめ合っていた2人だったが、先に沈黙を破ったのはハンジだった。
「アハ、ハハハ、ごめんよモブリット。君の悩みの種はいつだって不摂生な私だよな。酒の肴にはつまらない話題だったな、悪かった。」
「あ、いえ、そんな事は…」
一瞬見せたハンジの真面目な表情がまたホロ酔いの表情に戻る。
その変わり様にモブリットは戸惑うが、ハンジは笑いながらまた酒を煽り始めた。
「私は変わらないなぁ。これから先もずっとモブリットの説教を聞き続けるんだろうなぁ。」
「分隊長…自覚があるなら少しは変わって下さいよ……」
「ハハハ、そうだな。でも私には全く変わろうとする気がないから無理だろうな。だからモブリットが変わってくれ!!もう説教しないって。」
エッヘンとえばりん坊の様に胸を突き出し、鼻息を荒くしながらとんでもない宣言をするハンジ。
「分隊長…そこまで言われてしまうと、私も変える気はありませんよ。」
モブリットは呆れてため息混じりに言い返すが、ハンジの顔はニッと笑い余裕の表情だ。
「アハッ!!お互い似た者同士だな。」
「……?!ど、どうして私が分隊長と似た者同士なんですか!?失礼を承知で申し上げますが、それは心外です!」
「そうかぁ〜、それはすまなかった。モブリットは私と違って柔軟性に富んだ人間だと、そう言いたい訳だね?」
「…なんだか引っかかる言い方しますね…ま、まぁ…今の分隊長の宣言に比べれば、それなりに柔軟性は持ち合わせてるつもりですけど…」
「だよね?!やっぱりそうだよね〜!私みたいな人間の副官を務めるからには、多少の柔軟性を持ち合わせてないとやっていけないよね〜」
「いったいあなたは何が言いたいんですか……」
「う〜ん、そうだなぁ…私の説教ばかりでなく、その柔軟性を使ってもっと人生豊かにしろってことだよ。」
「はい?それはいったい…」
「命短し調査兵だ。私の説教ばかりに精を出してないで、人生に悔いの残らない様他にも目を向けろって事だ。」
「………」
ハンジのその言葉に、モブリットの胸の中にある何かが、コトンと音を立てて動いた。