第46章 巣立つ想いと、残る想い
年があけてしばらくすると、壁内は本格的な冬を迎えていた。
凍てつくような寒さだ。
そして雪が積もる日もある。
しかし、その雪は、ハンジ達が記録したカマキリの卵の位置を越えることはなかった。
このまま雪を被らずに春を迎えたら、ハンジの仮説も信憑性が増し、信じる者も増えてくるかもしれない。
いや、増えて欲しい。
これだけ3人で頑張って記録をつけ、報告書を作成しているのだ。我が敬愛するハンジのためにも、クレアはこの努力が報われることを他の誰よりも願っていた。
そして雪は積もっては溶け、積もっては溶けの繰り返しの日々。
そんなある日の夜の事。
3人での仕事を終え解散し、部屋に戻ってきたハンジ。
時刻は間もなく日付をまたごうとしているが、そんなのはお構いなしだ。
グチャグチャになっているテーブルの上の物を右に左に移動させなんとかスペースを作ると、3冊ほどの本を置いた。
「今日はコレにするか。」
そして、ハンジは安い割にはそこそこ美味しかった辛口の白ワインをグラスに注ぐと、イスに腰かけ脚を組み目的の本を開いて読み出した。
小さなロウソクの明かり1つだけをつけて。
…ハンジの生活サイクルはいつもこんな感じだ。
3人での仕事を終えた後も、すぐには眠らず、風呂にも入らず本を読みふける事が殆ど。
満足してベッドに入る時もあるが、そのまま寝落ちしてしまう時もしばしば…
そしてそんな生活がしばらく続くと、突然燃料切れを起こし動かなくなる。
モブリットが散々説教をするもまったく効果無しだ。
しかし、この知識欲旺盛のマッドサイエンティスト、ハンジ・ゾエは、訓練を終え、仕事を終えたこの時間こそが、静かに読みたい本を読める至福の時間と言っても過言ではなかった。
今夜は、日数的にもまだ燃料切れを起こす事はないだろう。
ハンジは頬杖をつき、時折ワインを煽りながら楽しそうに本のページをめくっていった。