第44章 その奇行種、舞姫
ー12月某日ー
季節はすっかり冬へと移り変わり朝晩の冷え込みも激しくなってきた。
ここ最近は、早くも雪が降り出しそうな気候だ。
「クレアー!?そっちどう?」
「ハンジさん、こっちも同じくらいです…」
「モブリットはー??」
「そうですね…こっちもだいたい同じくらいでしょうか…」
とある休日、ハンジ班の3人は寒空の中兵舎裏の、草木の生い茂った無法地帯でなにやら作業をしていた。
バインダー片手に白い息を吐きながらアレコレと記録をし、一通り済むと3人は無法地帯をでて、それぞれに記録を見せ合った。
「んー…昨年よりは明らかに低いね。」
「個数はだいたい同じくらいでしょうか…」
「そうだね。」
「ハンジさん、この記録をまとめて資料に仕上げたとしても…その…」
「うーん…やっぱり今年の冬は難しいみたい。」
ハンジ達が記録していた物、それは昨年も記録し報告書を提出した“カマキリの卵”だった。
どうやら記録を見る限りだと、今年産み付けられた卵は昨年の物より明らかに低い位置にあった。
昨年の様に本当にハンジの仮説が正しければ今年の積雪量は少ないと予想できる。
そうなれば壁外調査にでれる可能性も出てきそうなのだが、様々な理由で今年の冬は無理そうだとハンジは悔しそうに話した。
ウォール・マリア奪還ルートの完成まではまだまだかかるのだが、もう今現在完成している拠点から先は日帰りで帰ってくるのは無理な距離になってしまった。
冬の日暮れは早いため、そう考えるとなおさらあの距離を日帰りで往復するのは不可能だ。
そして、夜営をした場合の壁外調査のシュミレーションや、作戦などを連日のように会議をしているが、中々思うように進んでおらず、解決しなければならない問題も山積みだ。
そして資金。
以前にクレアはエルヴィンから直接兵団の資金事情を聞いていた。
夜営になると、資金の面からも厳しくなる。
「せっかく今年は雪が少なくなりそうなのに…ちょっと残念ですね…」
クレアはバインダーを脇に挟むと、冷えてかじかんだ真っ赤な手を擦り合わせながら呟いた。