第31章 それは奇行種が決めること
その夜、クレアは言われた通りにリヴァイの執務室に来ていた。
「…………」
紅茶の香りと共に大量の仕事をリヴァイと片付けていく。しかし、必死に手を動かしてはいるが、クレアの頭の中は、カオリナイトに言われた言葉と今後の自分についてどうするのかで一杯だった。
リヴァイは何も言ってはこないが自分から話をしだすのを待っているのだろうか。
今後の事をどうするのかといっても、リヴァイから離れていく選択肢などはどうしても考えられない。
昼の様子からすると、ここ数日の出来事に関して、リヴァイは気づいている様だった。まずリヴァイの意見を聞いてみるべきだろうか。
──コチコチコチ──
静かな執務室には時計の針の音と紙をめくる乾いた音が響くのみ。
なかなか話し出すことのできぬままただいたずらに時間は過ぎてしまった。だがもうだいぶ遅くなっている。これ以上黙ってる訳にはいかない。
クレアが重い口を開こうと、顔を上げた時だ。
「………!!」
リヴァイも同時に顔を上げ、偶然にも目が合った。
「あ、あの…兵長…」
「なんだ……」
ひとたび視線が重なってしまうと、なかなかうまく話しだすことができない。
だが、これは自身とリヴァイ、しいては兵団全体に関わることなのだ。
先延ばしにしていい問題ではない。
クレアはゴクリと唾を飲み込んだ。
「あの…実は…ある人からもう兵長には関わるなと…言われました…」
「あぁ、知っている。」
「え?!何で兵長がそこまで知って…」
「何でもだ。いいから続きを話せ。」
なんでそんな事まで知っているのだと疑問に思ったが、言葉を遮られては続ける他ない。
「……私が兵長の側にいる事で、兵長の命に危険が生じれば、兵団そのものの存続に危険が及ぶと…退団してくれても構わないと…言われました…」
もうリヴァイがどこまで自分の事情を知っているのか分からなかったが、なんだか告げ口をしている様であまり気分の良いものではなかった。
「それで、お前はどう思ってるんだ?」
「わ、私は……」
リヴァイはクレアの目を真っ直ぐ見つめたまま次に出てくる言葉をじっと待った。