第26章 奇行種、飛ぶ
──3月某日──
稀に見る豪雪もやっと落ち着き、3月に入ってからは、降雪はあるものの、積もることは殆どなかった。
兵舎の周りや街中も白一色から、徐々に地面の見える面積が増えてきている。
時折気温があがる日があれば、温かな土の香りが鼻をかすめ、春のいぶきが間もなくである事を感じさせてくれる。
少しずつではあるが、確実に春が近づいてきているようだ。
そして、積雪が落ち着くのを待っていたとばかりに壁外調査の日程が決まった。
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壁外調査の朝
クレアは少し早目に起きると、髪を櫛で梳かしいつもの様にきっちりとまとめ上げた。
そして引き出しに入っている小さな入れ物に入っている固形の香油を指に取ると、項の辺りにぬり、無事に帰還できる様に願をかける。
すると……
「クレア…?」
2段ベッドの上の方からまだ眠たそうなフレイアの声がした。
「ごめん!起こしちゃった?」
クレアは思わず両手を合わせて謝るジェスチャーをして見せる。
「ううん、いいの。ねぇ、クレア…今日の壁外調査、無事に帰ってこれたら来月には新兵の子達が入ってくるんだね。」
「あ……そうだ。」
忘れていたわけではなかったが、自分達が入団してから間もなく1年がたとうとしている。
この調査兵団にいったい何人の訓練兵が志願したかはまだ分からないが、4月になれば確実に自分達は先輩兵士だ。
「私、ここまで生きてこられたのが不思議なくらい。ほとんど、ミケさんや先輩に助けてもらってばっかりで…こんな私が次入団する新兵の先輩になんてなれるのかな?」
フレイアは横になったまま、ベッドの柵の隙間からクレアを見つめた。
フレイアは訓練兵団卒業時は、上位10位以内には入っていなかった。
しかし、精鋭のミケ班での訓練によってこの1年、フレイアは確実に成長している。
討伐補佐の数も申し分ない。
なんだか少し弱気になってしまっている様に聞こえたため、クレアはなんとかしてやりたかった。