第24章 いつもと同じで違う夜
カギをかけると、扉にもたれかかり懸命に深呼吸をして自分自身を鎮めようとする。
副官としての敬愛を貫く……
以前クレアに言った言葉をふと思い出したが、今のこの無様な状況を見るとあの時の、あの格好つけた発言をした自分に呆れて物も言えない。
人並みに恋愛もしてきた。
人並みに恋人もいた。
そして全て壁外調査で失ってきた。
そしてハンジへの想いに気づいてからは、敬愛という名の忠誠心に形を変え、モブリットはハンジの側に居続けることを選んだ。
それが、どんなに切なく成就することのない想いであるのかも、分かったつもりでいた。
しかし実際はどうだった。
男としての欲求が溜まってたとはいえ、その唇から紡がれた言葉1つで危うく間違いを起こしてしまう所だった。
自分がハンジに触れるのが許されるのは自室まで運ぶ僅かな時間のみ。
それは勝手に自分で決めた事である。しかし、それを違えてしまえば、確実に信頼を失い副官でいることもできなくなってしまうだろう。
でなければ、ハンジは自分にスペアのカギを預けたりなどしない。
ハンジのためならそういった欲求とも決別できるかと思っていたモブリットであったが、まだまだ修行が足りなかったと久々にひどく落ち込んでしまった。
なんだか今夜はすんなりと眠れそうにない。
時間は10時すぎ。ちょうどよく今日は降雪も落ち着いている。モブリットは1人飲みに出歩くことにした。
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なんとなくいつも皆で行っている行きつけの居酒屋には行きにくく、モブリットは人気のない裏道にまだ行ったことのない酒場を見つけて扉を開けた。
給金を使う時間もないほど仕事に明け暮れる日々だったのだ。初めて入る店だが多少ぼったくられても困ることはないだろう。
店に入るとバーテン風の酒場だった。数人の客がテーブルについている。
店の雰囲気は静かで、1人でしっぽりと飲むのにはうってつけの店だった。
「ここ座ってもいいかい?」
「どうぞ。」
モブリットは誰も座ってないカウンターに1人腰掛けると、マスターに強めの酒と適当なつまみを注文した。
「……。」
少しぼんやりとしながら飲んでいると、背後から人の気配を感じ、何気なくモブリットは振り向いたが、その瞬間に、全身の血液が沸騰する様な感覚に襲われた。
「!!」