第5章 間もなく卒業
季節は3月になり、少しずつ日中の気温が上がり始めた。
時折雪が舞い降りることもあるが、ほとんど積もらなくなってきた。
訓練兵生活も残すところ1ヶ月になったが、クレアは気を抜くことなく毎日真剣に訓練に精を出していた。
ある日の午後の訓練。
今日は朝からあまり気温が上がらずところどころ地面が凍っていた。森の木にもかすかに雪が残っている。
皆白い息を吐きながら立体機動の訓練の準備をしていた。前半は森抜け競争だ。
クレアはいつものように、順調に飛び出し、華麗に森を抜けていく。
すぐ後ろには最近実力をつけてきた男子の訓練兵が食いつくように追いかけてくる。
クレアとは真逆で高い身長な上、身体も筋肉質だ。
他の訓練兵とはだいぶ距離が離れているため、現在この2人で1着争い。
男子訓練兵は今日こそは追い抜かすといった気迫で迫ってくるが、クレアもそうやすやすとゆずる気はない。
斜め前方、少し高めの位置に両方のアンカーを射出し、飛び上がると、放物線を描く様に回転を加え、加速しながら地上10メートル辺りまで重力に任せて落下をし、一気に距離を離した。
クレアの武器はなんといっても身体の小ささを生かした身軽な身のこなしだ。
ワイヤーを巻き取り次の体制に入ろうとした瞬間…
「クソッ、ぐぁぁぁぁ……!」
ズザザザザザザッ! ドンッ!
人が落ちた!
クレアはすぐに振り返り、落下したであろう位置まで降りていく。
──いた!──
その男子訓練兵は右の額から血を流し倒れていた。
すぐにかけより声をかける。
「ちょっと、大丈夫?…えーと…」
名前は確か……
「ルドロフ!」
そう、彼の名前はルドロフ・アルバート。
最近実力を上げてきて、卒業成績10位以内は確実と言われていた。
うつ伏せに倒れているルドロフを抱き起こすと、右の太腿から出血をしていた。
おそらく木々にもまれて落下する際に刃が触れたのだろう。
ぱっくりと切れていて、すぐに処置が必要だ。
助けを呼ぼうと上を見上げても皆2人に気づくことなくどんどん通り過ぎていく。
自分で運ぶしかなさそうだ。
ここは森の中盤、戻るが吉か、進むが吉か、さてどちらだ。