第72章 “その時”がきたから…Side シェリル
でもね、割とすぐに“その時”はやってきた。
先頭を走ってるんだもん。
当たり前よね…
信煙弾の煙を抜けると、前方から無数の石が向かってきたの。
私はなんとか避けようと目を凝らしたけど、あのスピードには勝てなかった。
ードンッ!!!ー
投石が私の右頬と、エルヴィンの左脇腹を貫くと、私達はその衝撃で人馬転をした。
そして追い打ちをかけるように私の腹部にも当たり、大出血。
あぁ…いよいよ最後なんだって私は思った。
私のすぐ側で倒れているエルヴィンもピクリとも動かない。
もう少し先まで走ってあげたかったんだけど…
ごめんなさい…
ここまでみたいね…
エルヴィンに続いて走っていた新兵も次々に倒れていく。
辺りはバラバラになった新兵に倒れた馬に血の海。
誰が見ても地獄絵図。
でも、私は違った。
どんな地獄絵図だっていいの。
エルヴィンと一緒に逝けるのなら何も問題はないのだから。
長いようで短かった私とエルヴィンの時間も、これで終わりね。
でも、後悔は無いわ。
だって、私は誇り高きエルヴィン・スミスの愛馬だったのだから…
一緒に死ねるのなら本望よ。
そんな事を考えていたら、段々と視界がぼやけてきた。
いよいよ、死ぬのね私…
じゃあ最後の挨拶をしなくちゃね…
さようならエルヴィン…
あなたの愛馬でいられて私は幸せだった。
地獄だって天国だってどこだっていい…
死後の世界でもあなたと一緒にいたいの…
またあなたを背中に乗せて走りたいの…
だからお願い…必ず私を探し出してね…
私、エルヴィンが見つけてくれるの…ずっと待ってるから…
私は最後の願いを心の中で呟いてから、静かに目を閉じた。