第10章 奇行種に完敗
「……兵長?!」
戸惑いながらも出した言葉はこれが限界だった。
「クレア………」
「!?」
加速していた心臓がより一層高鳴る。
なに?!今のは……
聞き間違いではなければ、今兵長は私の名前を初めて呼んだ気がする。
兵長はいったいどうしてしまったのだ?
「大丈夫だ……。お前のことは、俺が見込んで調査兵団への入団を許可したんだ。お前は死なねぇ…自分と…俺を信じろ…」
「必ず生きて戻ってこい!」
リヴァイがクレアにしたのは幻滅でも叱責でもなかった。
ただまっすぐにクレアを信じているという激励の言葉のみ。
それはクレアが心の底から欲しかった言葉であった。
クレアはリヴァイの腕の中で、思う。
馬の訓練で身体を痛めた時も…
馬の調教で落ち込んだ時も…
新兵2人に襲われた時も…
いつだって辛いときにはリヴァイが側にいてくれた。
次第にドキドキするような、切なくなるような特別な感情が芽生えて、その正体がわからずイライラしたこともあったが、今ようやくわかったような気がする。
これは、恋なんだと……
私は、兵長が好き。それに今ようやく気づいた。
自身の気持ちに気づき、胸が熱くなると、自然と両腕がリヴァイの背中にまわった。
きつく抱きしめられる感触も心から気持ちよく感じる。
リヴァイの激励で涙の止まった瞳で再び見上げた星空は、何の不安もない、もとの美しい星空に戻っていた。
キンモクセイの香る夏の夜空に、2人は互いへの想いを自覚をするが、遠回りをしてきた想いは、まだ交わることはなかった。
明日はいよいよ壁外調査
前進あるのみ