第67章 約束
このところ姿を見なかったため、店主はタリアに飽きたのだろうと思っていた。
しかしモブリットが店に入ってきた時のあの切羽詰まった表情を思い出すと、もしかしたら腹を括って結婚の申し込みをしにきたのではないのかと思い、ここまで聞きに来たのだが、どうやら違ったようだ。
「なんだ…煮えきらない男だな。お前が欲しけりゃ欲しいとはっきり言えばいいものの…」
「…??どういう事…?モブリットには想い人がいるのよ?プロポーズだとか欲しいだとか…私にはよくわからないわ…」
「はぁ…お前といい、あの兵士といい、とんだ捻くれ者だな…」
「えぇ…?何よそれ…」
この様子だと、お互いがお互いに気を遣って遠慮をして…
好きだという想いすら伝えていないのだろう。
このところのタリアの様子に、店に入って来た時のモブリットの表情。
店主からすれば、お互いに好きだという感情がだだ漏れで聞くまでもなかった。
しかし、フタをあけてみれば互いの気持ちすら伝えていないというではないか。
「いいや、なんでもないさ。ほら、接客が終わったならさっさと次の仕事にとりかかれ…」
もう呆れて説明してやる気にもならなかった店主は、大きなため息をついてタリアに次の仕事を命じると、いつも座ってるカウンターへと戻っていった。
「もう…いったいなんなのよ…」
店主に言われた事はよくわからなかったが、今自分にできるのは、モブリットの無事を願い信じる事だけ。
ー秋に満開になる向日葵の花畑ー
そんな風景を本当にモブリットと2人で見る事ができるのなら…この胸に秘めた想い、伝える事ができるだろうか。
だが、それもこれも…モブリットと生きて再会できて初めて叶う事だ。
モブリットが去っていった方角に、祈るように手を組んで無事の帰還を願うと、タリアは店に戻り静かに裏口の扉を閉めた。