第67章 約束
「天と地がひっくり返るかと思ったさ…」
「そんなに?嬉しいわ!!」
モブリットの褒め言葉に気を良くしたタリアは、頬についた精液を指に絡めるとそのまま口の中に入れてしまった。
「な、何してるんだ…ちょっ…ちょっとそのまま動かないでくれよ!!」
「え…?!」
慌てた様子のモブリットを、指を咥えたまま見ていると、ずりおろしたズボンのポケットからハンカチを出して汚れてしまった顔を拭き出したのだ。
「あ、大丈夫よ…タオルならあるわ…わざわざ自分のハンカチなんか出さなくても…」
「何言ってるんだ、ハンカチの事なんかどうでもいい…いくら君が娼婦だからって…俺は…こんな汚し方はしたくない…」
「モブリット……」
「…君を抱きたくて来てる俺がそんな事を言うのは変かもしれないけど…ちゃんと後始末くらいはさせてくれ…」
モブリットは左手でタリアの頬の支えながら丁寧に汚した顔を拭き取っていった。
優しく、丁寧に、でも一生懸命に自身の放った精液を拭き取るモブリット。
この男はどこまで誠実で、どこまで優しいのだ。
モブリットの繊細な手付きは、タリアの中に芽生えた恋心を一気に加速させた。
だが、モブリットには想い人がいるはずだ。
それも、自分とそっくりの上官の想い人が。
しかし、モブリットは昨年の夏に突然、“君の事が知りたい”と言いだした時から、調査兵団の兵服を着て欲しいとは言わなくなった。
その上、行為の最中に上官の名を口にする事もなくなった。
何故だかはわからないが、こんなに優しくされてしまってはどうしても期待してしまう。
自分を想い人ではなく1人の女として見てくれてるのではないかと…
恋も愛も知らずに育ったタリアの想いはまだ幼子の様に臆病だ。
そして自分の“娼婦”としての立場がその想いを伝える事を邪魔している。
タリアはどうする事もできずに、されるがままモブリットの好意に甘えるしか事しかできなかった。