第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記
第3章 第三章「魑魅魍魎の忘却曲線」
「その首に下げているネックレスは貴方の?」
彼女は、元気良く頷くと、服の下に隠れたネックレスを首から外してみて、笑顔で私に見せる。そのネックレスを受け取り、よく見なくても指輪らしきものが付いていた。
私は、何とも言えない寒気を襲われた。その指輪は、多少傷付いて欠けていたりとしたが、水月ちゃんから預かっている青い指輪と酷似していた。何度見比べても、ネックレスチェーンまで全く同じ。彼女と顔を見合わせると、私の頭の中を駆け巡るように、一人の人物、女の子の名前が頭を過った。
「...若しかして...、貴女が竹華ちゃん...なの?」
恐ろしくも、彼女ははっきりと頭を縦に下ろした。自身を竹華と名乗る彼女は、咲いた花のように笑顔で、私の胸に顔を埋めてはすりすりしている。この動作が、何処か水月ちゃんと似ていて、それがとても微笑ましくて。彼女を包み込んで、水月ちゃんにしたように頭を優しく撫でる。竹華ちゃんが口を開く事は無いが、その眼から表情から感情が読み取れる。緑針さんの話では、竹華ちゃんは亡くなったと聞かせれた。それを知った上で訊いた自身が恐ろしかった。
「何しているんだ、そこで。その娘とは関わらん方が良いよ。」
少し掠れた怒りを乗せた声は、竹華ちゃんの来た方向から聞こえた。
「何か騒がしいと思ったら、こんな所で。それに、あいつも動いてると...。仕事を増やさないで欲しいね。」
深い皺が彫り込まれた老婆は、白髪頭を掻き毟りながらそう言う。
「...八尺様の事ですか...?」
私の問いに、老婆は全てを知っているかのように嘲笑する。
「ふ、笑わせてくれるね。八尺様は空想の存在だよ。第一、姿を見たもんはいない。見れば最後、死ぬ事になるんだからな。私たちが見てきたのは、事件が起きた後の現場だけだよ。それにあんた、眼ー付けられてるよ。ここにいると危ない。付いて来な。」
「......はい...。」
今は、この住職に従う他無い。
しかし、先程まで追い掛けて来ていたのが八尺様で無いとすれば、一体私は何に追い掛けられていたのだろうか。しかし、それは話を聞けば分かる事。素直に後ろを付いて行く事にしよう。