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第零世界「メレンス」ースカ―ヴァイス・フィレアの章 始記

第1章 第一章「乖離的慣性の法則」


「ふぅ...。」
私は今回の依頼の為に、その世界の史料に目を通していた。史料に一通り目を通した私は、身体に溜まった疲れを吐き出すように、息を吐いた。今回行く世界は第三世界「ファーベルグ」という場所なのだが、去年の冬に定期訪問に出たばかりで、さほど緊張はしていなかった。定期訪問自体、張り詰めた空気の中でするものでも無いので、延長線上で前回の緩さが自分の中に残っていたのかも知れない。
 私が、暫く椅子に凭れ掛かっていると、部屋の扉が開く音がした。ノックをしない限り、恐らくメグ姉だろう。回数を重ねすぎて、ある意味条件反射みたいな事になっている。
「何時になったらノックして入って来てくれるようになるの?」
私は開きっぱなしだった第三史書を優しく閉じ、手に抱えて徐に立ち上がる。ずっと座っていた所為か、少しお尻がひりひりと痛む。
「別に良いでしょーっ。それとも、何か疚しい事でも?」
「それはお姉ちゃんの方だと思うんだけど。」
「...はっ...ははー...。」
メグ姉は私のブラックジョークに只々失笑していた。しかし、何かに直ぐに気付いたメグ姉は咳払いした。
「そ、それで準備は出来たの?」
「うん。史料も今回の事に関係してそうな箇所は眼を通したし、後は現地調査かな。」
すると、メグ姉は何故かホッとした顔をしていたのを見て、私は首を傾げた。
「いやっー、まさか全部読んだのかなって思って。フィだったら在り得る事でしょ?」
「えぇ...。」
私とメグ姉は、私の部屋から出てリビングに向かう。その間、メグ姉とは少しの談笑を楽しんだ。

 リビングに入ると、リア姉とミシアちゃんが話しているのが見えた。内容までは分からなかったけど、リア姉が落ち着きないように見えたので、長年の経験で察しが付いた。リア姉は、私がこうやって依頼で外に出る時、いつもこんな感じだから。
「ほらリアお嬢様、フィレアお嬢様が来ましたよ。」
「え...、あっフィ。」
ミシアちゃんに促され、扉の前に立つ私を見て、リア姉は狼狽えている様子だった。私は余り気にしない様な素振りで、リア姉の隣に腰掛ける。リア姉の方を向いても、視線を逸らされた。でも、いくら平常を装おうとしても、手が落ち着きが無いからバレバレ。
「お姉ちゃん、今回の依頼は長くは掛からないし、大丈夫だよ。」
「え...で、でも...。」
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