第4章 家庭
家…。
私は領主様の言葉を何度も脳内で繰り返した。
私の家。私の家。
そんなものが本当に?
領主様が私を抱く手があたたかかった。
これほど優しく人に触られたことが、一度でもあっただろうか?
いや待って。ああそうだ。
もう忘れかけていたけれど、父と母が生きていた頃、確かにこんな風だったかもしれない。
「ヤーシュ、様…」
ヤーシュ様は何も言わず、ゆっくりと私の体を仰向けにすると、体を重ね合わせるようにして抱きついてきた。
重い。でも不快じゃあなかった。
「ヤーシュ様…。私、わたし…」
何か言いたかった。けれど何を言えばいいのかはわからなかった。
涙で声が詰まりそうになる中、なんとか言葉を振り絞った。
「明日のお菓子、がんばって作ります…」
その日私は初めて、自分からヤーシュ様の首に手を回し、彼を抱き寄せた。
不思議にあたたかい夜だった。私たちは、いつまでもいつまでも、お互いの体に腕を回して抱き合い続けた。
いつだか庭園でヤーシュ様から「好き」と言われたことを、なんとなく思い出した。