第3章 庭園
私は銀のお盆を両手で支え、庭園の舗道を歩いていた。
美しく並んだチューリップ。紫の花をフサフサ掲げるライラック。あと田舎者の私には名前もわからないような花々が、美しく咲き乱れている。
「ヤーシュ様、お茶の時間でございます」
ハチミツとスパイスの飲み物をグラスに注いで、焼き菓子を並べる私。
この屋敷に来てからしばらく経った。
お食事のお世話、掃除の仕方、言葉遣いなど基礎的なことは習い、実践できるようになっていた。
とはいえ相変わらず、この無愛想な主人の前に出るのは緊張するのだ。
「うむ、ご苦労」
そう言って領主様はグラスを手にとった。
そら見ろ、そら見ろ。
口では私をねぎらっているけれど、ニコリともせず無表情だ。
ああ恐ろしい。
ガーデンテーブルはキラキラした彫刻で飾られていて、とても綺麗だ。
けれどその上には無骨な書類がうず高く積み上がっている。
せっかくの美しさも台無し。ひどい話だ。
「うむ、うまい」
領主様は書類から目を離さず、ドリンクをすすった。
彼の専属使用人になって気づいたことがひとつある。
それは領主様がすごく、ひどく、とても、仕事熱心だということだ。
会議、書類、軍の指導、地方の視察。
このワーカホリック(仕事中毒者)が仕事の手を休めるのは、寝るときか、私を抱く時だけだった。
領主様は書類をめくると、皿から焼き菓子を取り上げ、無造作に口に放り込んだ。私はその様子を黙って見ていた。
と、領主様が突然顔を上げ、私に言った。
「この菓子は料理長の作ったものか?」