第1章 会いたくて
事故により道路が閉鎖され、解消までに1~2時間かかる。その為、出発時間は道路開通の連絡が来るまで遅らせる。
要はたったそれだけの事を3人に説明し終えた時、山崎の顔からは精気が失われていた。
「何でぃ、そんな事かよ。手間かけさせんじゃねーよ。山崎のくせに。それなら俺は出発まで寝るから、起こしてくだせぇ」
そう言い、手近な車の助手席を倒し、さっさと寝そべる沖田を、眉間にシワを寄せて見ていた土方は、ふと周りを見渡した。
「おい山崎、近藤さんは?」
「え?さっきまでそこに…あれ、いない」
山崎の返事に舌打ちをした土方は、沖田の眠る車のドアを開けた。
「おい総悟」
「何ですかぃ土方死ねコノヤロー。かわいい部下の貴重な睡眠の邪魔しねぇでくだせぃ」
「てめえのどこがかわいいんだ。それにしょっちゅう睡眠時間とってんだろ」
「寝る子は育つって言うじゃないですか。俺はまだ成長期なんで」
アイマスクをしたまま、面倒そうに答える沖田に、土方の眉間のシワは深くなる。
「あーもう!んなこたどうでも良い。近藤さんの姿が見えねぇ。知らねぇか?」
「近藤さんなら」
沖田は寝たまま腕を上げ、後部座席の更に後ろを指差した。
「時間あるなら、さんとこに一旦帰るって言って、走って行きやしたよ」
「はぁ!?…おめぇはどうしてそれを止めねぇんだよ!」
「何言ってんですかい土方さん。愛の力ってのは、他人が止められるようなもんじゃないですぜい。それに…少なくとも俺は、惚れた女にちゃんと自分の足で会いに行く近藤さんの方が…好感が持てますぜい」
バタンと閉じたドアの前で、土方はしばらく無言で立ち尽くし、数秒してから山崎を振り返った。
「…山崎、悪いがもう一度近藤さん迎えに行ってくれ。出発に間に合えば構わねぇから。俺も少し休む」
「…はい」
沖田とは別の車に乗り、シートを倒す土方を見て、山崎は大きくため息を吐いた。
いつの間にか曇り始めた空のどこかで、ヒグラシが鳴いていた。