第9章 番外編
すぐさま起き上がろうとするの肩を掴み、トラファルガーは彼女の身体を跨いで組み敷いた。普段被っている帽子がの頭の隣へパサリと落ちる。見上げた彼の表情は矢張り苛立っているように見え、は眉を下げる。
「…お前は行きずりの男と飯を食うのか?」
「違…っ、私がたまたまぶつかってしまってお詫びにご飯をご一緒させて貰っただけで…名前も知らないよ。」
「たかがぶつかっただけだろうが。適当に謝るだけで良いだろ。簡単について行くんじゃねェよ、また危険な目に遭いてェのか。」
「…ごめん、なさい。」
以前、呆気なく捕らわれてしまったことを思い出すとはしゅんと項垂れた。瞳に薄く涙を滲ませる彼女にトラファルガーは1度唇を引き結ぶとバツが悪そうに視線を横へ逸らす。
「………。…お前はおれの女だ。クルーだろうがナンパ野郎だろうが渡すつもりはねェ。勝手にウロウロするな。」
「…ローだって、女の人達に囲まれてたじゃないですか!」
「は…?」
ずっと涙を浮かべて落ち込んでいた筈のが突如声を上げた。予想とは随分違った反応に思わずトラファルガーの口から間の抜けた声が漏れる。しかしは気にせずそのまま続けた。
「酒場で、沢山の女の人達に囲まれて…私と目が合ったのに、何も言わないし、女の人達振りほどかないし…!いっぱい触られてて……私だって、貴方が他の女の人に触られるの嫌なのに…。」
遂にぽろぽろと大粒の涙を流しながら怒るにトラファルガーは静かに瞬きを繰り返す。彼女の言っている意味は理解出来たし、怒っているのも良く分かった。しかしそれよりも、彼女が他の同性相手に嫉妬心を抱いている事に、トラファルガーの心は高鳴った。今まで男っ気の多い船では彼女が何かに嫉妬する事など無かった故に、吐露された彼女の心情は、愛されているという実感を与え彼の心を満たしていく。
「…泣くな。そもそも酒場に居た時は苛立ってて周りの女は見えてねェ。お前を追って直ぐに出て来たしな。」
「……本当?」
「嘘を付く理由がねェよ。」
骨張ったトラファルガーの指がの涙を拭った。は疑いの目を彼に向けるが、確かに殆ど時差なく後に現れた彼を思い出すと、両腕をトラファルガーの背に回す。