第3章 2day
「お水、飲んできます。」
「…持ってきてやるから座ってろ。階段転げ落ちそうじゃねェか。」
「でも…。」
「黙って言う事を聞け。」
「は…はい。」
何から何まで、他の人にやって貰っている自覚があった彼女は若干納得のいかない表情を浮かべたが、鋭い瞳に見つめられ断る事は出来なかった。それに、足元が覚束無いのもまた事実。再びベッドへ腰掛け目を擦る。
「いいか、部屋から出るなよ。」
「…わかりました。」
返事を聞き、彼は再び甲板へと出た。夜風が心地いい。流石に騒ぎ疲れたのか船員達は甲板の至るところで眠りこけている。もちろん、後片付けなど一切されず。そんなだらしない姿を横目に、トラファルガーは船の食堂へと向かった。蛇口を捻り、冷たい水をグラスに注ぎ自室に戻ると彼女の身体はベッドへと横たわっている。グラスを机に置いて、顔を覗き込んで見れば聞こえる寝息。
「……寝やがった。」
人のベッドで幸せそうに寝やがって…。
彼は眠る彼女の頬を摘んだ。小さく唸るが、起きる気配は無い。そこでふと、首に掛けられた真っ赤なチョーカーに目が止まる。初め見た時はただのチョーカーかと思っていたが…これは、首輪?鍵が掛かっているようにも見える。これは彼女の趣味だろうか。それとも…。
が起きていない為真実を問うすべが無い。起きたら聞こう。そしてこれが彼女の趣味では無く、掛けられたものならば取り払う。そう決めたトラファルガーはベッド下へずり下がる毛布を持ち上げ、彼女の隣に寝転ぶ。
「…面白くねェな。」
誰に聞かれる訳もない独り言。
がクルーと自分以上に仲良くなる事も。自分と出会う前に何があったのか詳しく知らない事も。腹の中で苛立ちが燻る。
トラファルガーは募るもどかしさを紛らわせようと隣で幸せそうに眠る彼女の額へ唇を押し付け、まぶたを降ろした。
航海、2日目
(それは確かに嫉妬だった)