第1章 運命論的encounter
「あぁぁぁあぁっっっ!!!!!」
「ひゃあぁぁっっっ!!!」
狭い店内に響く二つの声
自分から出たとは思えないくらいの素っ頓狂な声にも驚いて体が強張る
「こ、これ!この駄菓子はっ!!」
こちらのことなどまるで気にした様子もない男性客は、一つの駄菓子を手にしてわなわなと震えている
何か不都合なことでもあったのだろうか
まさか虫が入っていたとか…!?
「あ、あの…どう、しました?」
「何でまだ売ってんの…?!」
「へ…?」
「去年製造中止になってから、ヨコハマではもう買えなくなってたのに!」
少し興奮したように話す様子は、まるで近所の小学生の様
あぁこれもこれも!と次々と大発見を繰り返す
その様子に呆気にとられていると、次の発言にまたもや驚かされる
「んーじゃあこれ全部頂戴」
そう言うとポケットから財布を出しお札を差し出してきた
「え…これ、全部ですか?」
所謂、大人買いってやつだ
正直こちらとしては、在庫の整理ができるし、大量に箱買いしてくれたほうが助かる
でも、でも…
初めてだらけの状況に困惑していると、彼は購入予定の駄菓子の中からスナック菓子を手に取り封を開けた
「これ好きなんだよね」
待ちきれないとばかりに一口口に含むと、口元がふわっと緩んだ
あぁ…この人、本当にお菓子が好きなんだ
おいしそうに次々と食べ進める無邪気な姿に、やっぱり想像するのは常連の子供たちの顔
なんだかすっかり毒気を抜かれてしまい、こちらもつい笑みが零れた
「あの…良かったら、お茶をお淹れしましょうか?」
偶然
その時はそう思っていた
運命なんて空想、哲学者たちのこじつけだと
それが私と彼…江戸川乱歩との出会いの始まりだった