第7章 1step,2hands,3seconds
お店の前に停めた白い軽自動車
何度かお世話になったその車は十年程乗り続けていると言う割に外装も内部も奇麗で、物を大事にする里田さんの性格が表れているように思えた
久し振りの運転に気合を入れつつ遠目から車内を覗き込むと、シートを倒して寝転がっている乱歩さんが見える
その姿に自然と口元が緩み、足早に駆け寄り運転席側のドアを開けた
「すみません、お待たせしました…」
運転席に乗り込むと、乱歩さんがむくりと起き上がりこちらに顔を向ける
視線の先は私なんだろうけど、何分隠された瞳のせいで感情が読み取れなくて
無性にドキドキして、恥ずかしくなる
乱歩さんの眼は、私が今どんな気持ちでいるのかも全部見透かしそうだから
「…これでもずっと我慢してたんだけど」
「え…?」
「後で貰うから」
いつになく真面目なトーンで二度ポツリと呟いた言葉は謎めいて、何かヒントを探そうと視線を落とした先にカップケーキの入った紙袋が目に入る
あぁなるほど!
甘い匂いが漏れたのかな?
きっと後で食べたいって意味だ
と解釈して後部座席へ置こうと手を伸ばす
すると乱歩さんの手がスルリと伸びて、私の持っていた紙袋をかっ攫ってしまった
瞬く間に紙袋は開けられ、中身がその手元へと取り出される
「僕の思った通り、美味しそう」
「…?!?」
お菓子を前にした乱歩さんは上機嫌になった上、今にも噛り付きそうで
その様子に思わず目をぱちくりとさせてしまった
「…どうかした?」
「あ、すみません。てっきり後で食べるのかと…」
乱歩さんの言葉と行動とが一致しなくてイマイチ理解が追い付かない
これは…気が変わったのかな…?
頭の回路を無理矢理纏めていると隣からふ、と息を漏らす音が聞こえた
「いや…今から頂くから」
協力して、とゆっくりと伸ばされた乱歩さんの右手が私の頬に添えられて、その親指が私の下唇の際をなぞる
翠色の瞳が薄っすらと開かれると、私の色付いた唇をじっと見詰めているようだった
ゴクリと喉が鳴る
まさか…
いや、そんな…