第6章 漆黒の中の懐古と猜疑
不安なはずなのに…
漆黒の瞳に揺れる憂いを確かに見たはずなのに、潤くんは決して弱音を吐かない
「不満、ではないの?」
「うん…まぁ、わからないでもないんだ。
雨宮建設は父が一代で築き上げた会社だから。
息子と言えども潰されたくはないだろうしね。
…あぁでも安心して。
僕が社長になれなかったとしても、百菓ちゃんの内定のことは関係ないから」
そうやってまた笑って
潤くんはいつだって自分を二の次にして私を気遣ってくれる
昔のよしみがあるにしてもこんなに良くしてくれるのは気が引けてしまうくらい
まさか、と一瞬過(よ)ぎる馬鹿げた想像に自嘲しながらも、一連の幼馴染の行動が脳裏を駆け巡る
「ねぇ潤くん、どうしてそんなに…」
良くしてくれるの?
その問い掛けは全てを口に出す前に携帯電話の着信音により遮られた
潤くんはスーツの胸元から素早く携帯電話を取り出し電子音を止めると、画面をスクロールしながらじっと液晶画面を見つめている
徐々に険しくなる目元に仕事関係の連絡なのだと何となく理解できた
「っごめん、百菓ちゃん!
もう会社に戻らないと」
緊急の要件だったのか、少し焦ったように携帯電話を仕舞う
そう言えば潤くん仕事中だ!
「こっちこそごめん!
忙しいのに長話してしまって…」
「大丈夫だよ。
また来るから、その時また思い出話でもしよう」
じゃあ、とお店の引き戸が開けられると、取り付けられたベルが激しく左右に揺らされて
音が鳴りやまない内に店内には再び私一人だけとなった
仕事のことも家のことも
今は大変な時期であるのに…
こうして様子を見に来てくれたり、わざわざ書類を持って来てくれたり
いつも暇そうにしてる乱歩さんとは大違い…
…?
あれ…?
そう言えば…
潤くんは、乱歩さんがこの集落へ来たのは“後継者の身辺調査”のためだと言った
私が乱歩さんにお仕事のことを聞いた時
確か……
依頼内容は……
――“人探し”
どう言うこと…?
どうして二人の言っていることが違うの?
どちらかが嘘を吐いている…?
私に何か隠してる…?
混乱する思考の中、店の前を走り去る車の走行音が不穏げに胸の奥をざわつかせた