第4章 open or close
「えっと…ここなんですけど…」
目の前には一枚の扉
あの後乱歩さんに簡単に事情を説明し、家の中へと案内をした
店内からキッチンを通って廊下に出るとそのまま奥へと進む
トイレ、洗面所を過ぎたその先突き当り
そこにある何の変哲もない木製のドアは、焦茶色の一枚板から出来ており、経年により塗装が剥げ、所々白く変色している
小窓などはなく、丸いドアノブの下には鍵穴が一つ
「ここを開けたらいいの?」
じっと扉を観察していた乱歩さんがちらりと横目で私を見る
「はい。自分の家なのに、お恥ずかしい話ですが…どうしても開かないんです」
ポケットの中から鍵を取り出すと、鍵穴に差し込み回してみせた
左右へ捻ってみるが、空回りしているような感触
「やっぱり…。何度やっても手応えがないんですよね」
次にドアノブを回して押してみる
扉自体が枠より内側にあるため、押して開けるドアのはず
力を入れて体全体で押してみるけれど、びくともしない
「…はぁ、やっぱり無理…っ!」
「力技じゃ開かない、か」
「何か仕掛けがあるんでしょうか」
そうだね、と何か考えながら再びドアへと視線を向ける乱歩さん
ここまで連れて来ておいて何だけど
こんな事、本当にお願いしてよかったのかな
直前で弱気になるのは私の悪い癖だな…
「…すみません…他に頼る人がいなくて。
でもこの中にあると思うんです」
売買契約に必要な土地の権利書
不動産会社から準備するように言われて、家中を探し回ったのに、どこにも見当たらない
探してないのはこの部屋だけ
通帳や印鑑、保険証書、このドアの鍵でさえすぐに見つけられたのに、何故か権利書だけがなくて
まるで態と隠されているかのよう
―――『この部屋には決して入ってはいけないよ』
夢に見たあの言葉がふいによぎる
まさか、おばあちゃんが…?
「どうかした?」
「え…、いえ、何でもないです」
急に黙り込んだ私を不審に思ったのか、声を掛けられハッと我に返る
…もう決めたんだから
下唇をぐっと噛むと、鍵を引き抜き乱歩さんへと渡した
「あ、それと…この扉、何だかおかしいんですよね」