第3章 稀代なる名探偵殿
でも…否定、されなかった
その言葉の意味が、理解なのか無関心なのかは別として
それだけで
たった一言だけで
妙に安心してしまった
「だって僕は、」
そして乱歩さんは言葉を続けるとにかりと笑い、テーブルに置いてあるお菓子へ手を伸ばす
「君の作るお菓子をこれからも食べさせてくれさえすれば」
「お…お菓子、ですか…」
なんだかガクッと力が抜けた
5秒前の安心感返して…!
……ん?
あれ、乱歩さん、今
“これからも”って言った…?
それって
乱歩さんの仕事が片付いて、ヨコハマに帰っても?
わからない
けど
都合の良いように解釈してもいいのかな
また、自惚れてしまいそう
…いや、いやいや
これはいつもの勘違いパターンだ
ただお菓子が美味しいって褒められてるだけだから!
だってほら乱歩さん、涼しい顔してるし
「…ネット販売は続けるつもりですよ」
恍(とぼ)けた返答をすると「注文とか面倒」なんて駄々を捏ねたりしてる
私じゃなくて、お菓子目当て!
心の中でもう一度繰り返す
そうでも思ってないと、またドキドキしてしまいそうで
またトイレに逃げるなんて流石に…
と、ここまで考えて、ふと思い出す
もしかしたら乱歩さんなら…
名探偵と名乗るだけあるならば
打開してくれるかもしれない
背筋を伸ばし向き直ると、お菓子を頬張る乱歩さんがこちらに気付く
こうしていると本当に少年のような雰囲気だけど…
深く息を吸い込むと、強い決意で乱歩さんを見据えた
「稀代の名探偵殿。
あなたを見込んで、お願いがあります」