第3章 稀代なる名探偵殿
小窓から見える晴れた空をぼんやりと見つめる
長閑(のどか)な外の空気とは対照的に、胸の奥は煩いほど高鳴っている
トイレまで逃げてきたのに、治まる気配は全くなくて
気持ちを空っぽにしようとしても頭を支配するのは、あの翠玉の瞳
先程といい、昨日といい
思い返すと心がざわついてしまうのは、自惚れなんだろうか
そもそもどうして毎日来てくれるんだろう
本当に暇だから?
それとも…?
どうして、どうして
と、そればかりが頭に浮かんでくる
淡い期待が胸を掠めて余計に鼓動が落ち着かない
乱歩さんは私の心を掻き乱す天才かもしれない
*
トイレから廊下へ出ると、店内へと戻るキッチンとは逆、右方向へ視線を向ける
窓がなく薄暗い廊下の突き当たりに見える一つの扉
年代を感じさせる木製の造りと家の古さとが相まって、昼間にも関わらず不気味さを醸し出している
この扉の先には…
「……おばあちゃん、ごめんね…」
声にならない声で呟くと、キッチンへと歩を進めた