第16章 ワールドトリガー 風間さん
「ちょいと、諏訪さん?」
「なんだよ?」
タバコの灰を、とんとん、と灰皿に落として、諏訪洸太郎さんが、わたしを見る。
面倒くさそうな目だ。厄介な奴が来やがった…みたいな目で見る。だが、わたしは、そんなことなど気にしない。
「あの、席についてなんですが……わたしには、荷が重すぎます。 だから、諏訪さん。 席を変わってくださいよ」
ボソボソと、手を耳もとに添えて、小さく言った。
「おトイレに」と、おとなり様に伝えて、なんとか席を離れてきた。
トイレから戻ったとき、
わたしは諏訪さんに話しかける。
トイレはただの理由付けで、ほんとうの目的は、諏訪さんに直談判をしたかった だけなんだよね。
諏訪さんはいま、いちばん端に座る。この部屋で、いっちばんの、安心、安全、快適な席である。
諏訪さんは、
あ・の・お・方☆の
酔っ払ったときの対応が、
いちばん上手い。
慣れておられる。たくみだ。匠技だ。
わたしは、数日前に誕生日を迎え、20歳になった。いえーい。
B級にも数ヶ月前に
やっと上がったところだ。
今順調にランクを上げている。
いえーい。
ではでは。
今夜の飲み会のメンバーを
紹介しよう。
全員Aランク、もしくは
Bランク上位の方々ばかり。
つまりだ。
わたしは場違いの新米だ。
新米は、諏訪さんへ真剣な眼差しを向ける。
「荒れた際の対処が、わたしには できません」
きっぱりと言った。言い切った。
「だーいーじょーぶだ。 心配すんな、風間は花奏には、甘え」
タバコを吸って言う。
風間とは、風間隊の隊長のことで、
アタッカー風間蒼也さん。21歳。
わたしより1つ年上で、大先輩である。
甘い?
なにをもって甘いんだ。
帰り道、同じ道だからと、
風間さんが「いっしょに帰ろう」と
誘ってくれるのが甘いのだろうか。
たまに、同じアタッカーだからと
アドバイスや、模擬戦の相手を
してくれるのが甘いのか?
とにかく、そーーんなことは、いま関係ない。甘かろうが、塩対応だろうが、意味がない。
「ほらほら、諏訪さん、風間さんを見てくださいよ。 だんだん雲行きが怪しくなってきてますよ?」
魔のカウントダウンは、
すでに始まってしまっているのだ。