第3章 『お世話』
奴は泣くとは思わなかったのか、ギョッとした表情になる。
「ちょっと待って…ごめん…」
奴の腕を掴む力が緩んだのを感じた。すかさず私は腕を振り払い、部屋を飛び出す。
「あっ待って!」
後ろで呼び止める声が聞こえたが、私は全速力で廊下を駆け抜け、適当な扉を開けて入る。乱暴に扉を閉めて、ドアノブを押さえつけるが、扉の外に人の気配はなかった。走っている途中に振り払えたのだろうか。
私はその場にへたりこんだ。床の絨毯にポツポツと涙が滲む。
「なんでこんな…」
鼻水も出てきて、止まらない。
「あら?あなた、大丈夫?」
その時、頭上からゆったりとした優しい声が聞こえてきた。