第3章 『お世話』
顔を上げるとそこにはほんわかとした雰囲気のお姉さんが立っていた。
「あらあら。可愛い顔が台無しよ。」
そう言ってお姉さんは床に膝をつくと、懐からハンカチを取り出し、私の顔を優しく拭いてくれた。
「あの…すみません。」
「いいのよ。あなた…初めましてかしら?」
「あっはい。」
「私の名前はフーナ。あなたは?」
「悠子です…」
「可愛らしい名前ね。どうして泣いていたのかしら?」
会話の途中で後ろの扉が勢いよく開く。
「ここか!」
奴だった。
「あら。」
お姉さんは奴の姿を見て、ふわっとした笑顔を見せた。
「こんばんは。バックスさん。」
「あぁ。君の部屋か。」
「ええ。ふふっ。バックスさん女の子を泣かせたんですか?」
「そんなつもりじゃなかったんだけど…。」
2人は顔見知りらしかった。私はいたたまれない気持ちになるが、涙は止まっていた。
「とにかくまだその子との話が終わってない。」
そう言って奴は私に手を伸ばす。
「触らないでっ!」
私はその手を振り払った。
「いてっ!」
「まぁまぁ。嫌われたものね~。」
「はぁ……もう話はいい。」
奴は突然諦めた風になり、背中を向ける。
「とりあえず世話係のつまみ食いは禁止しとく。だけど、俺の命令には従ってもらうから。」
そう言い残して奴は去っていった。
『つまみ食い』とは何のことか分からないが、とにかく今日は諦めてもらえたらしい。