第1章 米花町2丁目21番地
火事で住処を失ったおかげで、いい女付きで工藤邸に住めることになったのは何かと好都合だが、焼けてなくなった物も多数あり、それらを買い揃えねばと考えていた所だった。
あの女も誘ってみるか。
かおりの部屋を訪ねてみる。
軽くノックをして、声をかけたが返事はない。
部屋から出た気配は感じなかったから、中にいるはずだが。
「入りますよ」
ドアを少し開けて中を覗くと、
奥の真っ白なベッドに横たわるかおり。
寝ているのか?
そっと、近付きベッドの端に腰掛けると、
彼女はスー、スーと、規則正しく寝息を立てていた。
「どこかの姫のようだな」と思わず声になる。
手を伸ばし頬に触れると、一瞬息が乱れ、顔をしかめられた。その一瞬の表情が、堪らなくなる程美しく。
手が自然と動く。滑らかな白い首筋に、艶のある綺麗な髪。
再び頬に触れると、眠り姫が目を覚ましたようだ。
「おきや、さん?」
彼女の手が、頬に置いたままの俺の手に重なる。
「すみません、ノックしても返事がなかったので入ってしまいました。そしたらかおりさんの寝顔があまりに綺麗だったもので」
「寝ながら見上げる沖矢さんも素敵・・・」
「こんな状況で、あまり僕を煽るような発言は控えていただきたいです」
「それ、沖矢さんもですよ」
「・・・残念ですが、僕は今あなたを襲いに来た訳ではありませんよ。買い物に出掛けませんか。お互い越してきたばかりで、必要なものもあるでしょう。車はあります」
「買い物・・・行きたいです・・・ただわたし・・・良ければでいいんですけど、役所と職場にも行きたいんです・・・連れてってもらってもいいですか?」
「お安い御用です。では車を持って来ますので、十分後に玄関でよろしいですか?」
「一緒に駐車場まで行きますよ?」
「いえ。あなたに無駄足を踏ませるようなことはさせません」
「じゃあお言葉に甘えて」
俺は工藤邸を出た。チラリと阿笠邸を見て、逆方向に歩き出す。
かおりという女は、面白い女だ。
一見清らかそうだが、俺を見つめてくる瞳はまるで娼婦のようでもある。
抱いたらどんな顔を見せてくれるのか。