第1章 米花町2丁目21番地
ぴったり十分後、沖矢さんが車に乗って工藤邸に戻ってきた。
わたしは車には詳しくないけど、彼の愛車がすごく珍しい車種であることは分かる。
沖矢さんは運転席から降りると、助手席側に回りドアを開け、わたしに乗るよう促す。
「こんなことまでしてくれなくても・・・」
「あなたに無駄足は踏ませないと言ったでしょう。まずは役場に向かいましょうか」
独特のエンジン音を響かせ、車が走り出す。
「沖矢さん、わたしこの車初めて見ました。レトロで可愛いー」
「スバル360です」
「スバル!・・・昴さんだけに?」
「よく言われます。同じ名前なので愛着もありますよ。かなり古いし癖も強いんですが、そこがまた好きでね」
・・・運転する横顔もまた格好良いー・・・なんて今言ったら、また返事に困るようなこと言われそうなので、今はやめておくけど。
その後、沖矢さんのおかげで用事も買い物もスムーズに済み、最後に宗介さんの事務所へ寄ることになった。
「僕も一緒に伺ってもいいですか」
「いいですけど?」
「あなたを東京まで引っ張ってきた男の顔を見てみたくてね」
「普通のオジサンですよ・・・」
宗介さんの事務所が入っているビルは三階建てで、
一階がビルの大家さんが経営している喫茶店エラリー、
二階が宗介さんの岡田探偵事務所兼自宅、
三階が大家さんの自宅という小さなビルだ。
車から降りると、窓からこちらを見下ろしている宗介さんが見えた。久しぶりの再会に飛び跳ねて手を振る。
「宗介さーん!」
「葵ー!本当によく来てくれたな!」
事務所に入ると宗介さんは頭をヨシヨシと撫でてくれる。
「で、隣の君は?」
「沖矢昴と申します」
「どうも、葵の上司の岡田です。葵、こっちに彼氏でもいたのか?」
「違います!でも、訳あってこの方と今日から一緒に住むことになりまして」
「工藤優作の家でか?そんなこと聞いてないぞ」
「わたしも昨日の夜知ったばっかりで」
「おいおい・・・どういう事か説明してくれよ」