第6章 気付けば彼のことばかり
再び鳴る、お腹の音。
「お腹空いてたんでしたね。スグ作ります」
パッと離れてコンロの前に戻った安室さんの横顔を見つめながら、少し、寂しいと思ってしまう。
赤井さんが好きだと確信したばかりなのに、安室さんに触れられると心が乱される。
どうして・・・。
オムライスにしますね、と言った彼の横で、用の済んだ調理器具を洗っていく。
横目でずっと見ているが、手際の良さに感服する。
あっという間に出来上がるケチャップライス。
続いて別のフライパンに卵液を入れて菜箸でクルクルとかき混ぜる・・・どうやらオムレツを乗せるパターンのよう。
ちなみにわたしはフワフワとろとろの卵が大好きだ。
出来上がったオムライスをカウンターで食べる。
「いただきまーす!」
ナイフでオムレツに切れ目を入れると、パッと開いて中はとろとろ。
「お店みたい!」
「お店ですから。どうぞ」
一口食べると、懐かしいような、ホッとする美味しい味。
「美味しいですー!安室さん!」
「こんなに美味しそうに食べてもらえると、作った甲斐がありますね」
ニコニコしながらコーヒーを飲む彼は、とても悪い人には見えないんだけどな・・・
あっという間に食べ終えて、食器を片付ける。
「安室さんの今日の仕事って?」
「ストーカー調査です」
「物騒ですね」
「かおりさんも気を付けてくださいよ。あなたは可愛いんですから」
「安室さんこそポアロの常連さんとか」
「僕は大丈夫です。でもそろそろ行かないと。よかったら家まで送りますよ」
「いつもすみません・・・」
「少しでもかおりさんのそばにいたいんです」
そう言って彼は髪を撫でてくる。
なんでこの人はこんな恥ずかしいセリフをスラスラと言えるんだろう。いちいち照れてしまう。
エラリーを閉め、少し早いかとも思ったが事務所も今日は終わりにする。
歩いて十五分の距離は、車だとあっという間。
「昨日はできませんでしたからね」
シートベルトを外しこちらを向き、彼は両手を広げる。
おいで、という意味か。
身を乗り出して彼の懐に擦り寄ると、抱きしめられておでこに口付けられる。
数秒見つめ合うと、どちらからともなく唇が近付いて触れ合った。
「行ってらっしゃい」
「はい。行ってきます」