第6章 気付けば彼のことばかり
翌日。今日も誰もいない仕事場に向かう。
エラリーの店内が暗いのを確認して、階段を上がる。
事務所に入って、盗聴器を確認、何も無い。
よかった。今日はひとりで自分のペースで過ごしたい。
昨夜、赤井さんはわたしを抱かなかった。
正直助かったと思ってる。
安室さんとの行為の記憶が濃厚に残っている状態では、いつも通りにいかなかったと思う。
でもいくら組織の壊滅が目的にあるとはいえ、犬猿の仲である男に簡単に抱かれたわたしを、赤井さんはどう思っただろう。
・・・どうも思ってないか。
こういうことも起こり得るって言ってたのは赤井さんだ。
でも断ってもいいとも言っていた。
赤井さんはわたしのこと、好きなんじゃないかって・・・この前そんな気は感じたけれど、ハッキリ言われた訳ではない。
もう呆れられてるかもしれない。
胸が痛む。殴られても刺されてもないのに、なんで痛いんだろう。
気付けば頭の中に浮かんでくるのは、赤井さんのことばかり。
赤井さんの事は、容姿や声が物凄くタイプなのはとりあえず置いておくとしても、信頼してるし、好き。
たぶん、本当に好きなんだ。
・・・本当は、結構前からそうだった?その気持ちに気付いてないようにしてただけで。
昼ご飯を食べるのも忘れて、モヤモヤと考え事に耽っていた。
エラリーが休みで、美味しい匂いがしなかったからかもしれない。
窓から通りを眺める。
よく見覚えのある車が一台、こちらに向かって、ウインカーを出し減速している。
咄嗟に窓から離れ、自分の仕事スペースに座り直す。
なんでまた・・・降谷零だった。
思わず頭を抱えそうになるが、平然を装い仕事をしているフリをする。
「こんにちはかおりさん!」
「安室さん!来てくれたんですね!」
椅子から立ち上がり、入口で彼を出迎える。
「今日はポアロのシフトは二時までだったので。会いたくて来てしまいました。夕方から探偵の仕事があるので少しだけですが」
「そうなの?でも会えて嬉しいです」
自然とハグし合い、唇が軽く触れる。柔らかくて気持ちがいい。なんでそう思ってしまうんだろう。
「ママは、何か変わりありましたか?」
「意識は戻ったそうですよ。でもまだ入院が続きそうですね」
「そう」
「エラリーの中、入ってみます?」