第6章 気付けば彼のことばかり
家に入って靴も脱がぬ間に沖矢さんに抱きしめられる。それは苦しいくらい、力強くて。
「おかえりなさい、かおりさん・・・」
「・・・ただいま」
長い間そのままだった。
そんなに心配させてしまってたのか。
腕から解放されると、いつものように盗聴器を確認して、リビングに。
この二日間のことを順を追って話す。
「ニッポンの警察は優秀だとか言う辺りは、公安の人間らしいな」
「ですよねー」
「しかしな、かおり。お前がラウンジで資料をまとめている間に車から荷物を取ってきたのは彼じゃない」
「じゃあ誰?」
「この前の公安の風見とかいう刑事に取りに行かせただけだ」
「えっ!?来てました!?・・・どっちにしろ全然気付きませんでした・・・」
「それは仕方ない。風見は降谷にさえほとんど接触していない」
「そうでしたか・・・なーんだそうか」
「昨日も今日も、彼が例の組織のメンバーと接触したようには見えんかったし、本当の彼の姿はおそらく公安の人間なんだろう」
「だといいんですけどね」
「昨日はなぜ電話に出なかった?」
「すみません。わざと出なかったんです・・・雰囲気作りに利用させていただきました」
「そうか」
「でもあれ赤井さん分かっててかけたんでしょ?まさか見てた?」
「なんのことだ?しかしあの高さ、距離で正確に部屋の中の様子が分かるとしたらライフルのスコープでも覗かんとな」
「ちょっと!怖いんですけど」
まさか、全部見られてた?背筋がゾッとする。
「大丈夫だ、そんなことはしていない」
「よかった」
「なんだ、アイツはそんなに良かったか?俺に見せられん程乱れたか」
「そんなこと、ありえません!」
降谷零との良かった話は基本的に赤井さんには話さない。
嫌いな人物の良い話なんて、聞かされても気分悪くなるだけだろうし。
だから降谷零にも沖矢さんのことをあまり良く言わないのであって。
明らかに嫌い合ってるように思われるこの二人。
同時にどちらとも良好な関係を保つには、嘘でも吐かなきゃ無理だ・・・
宗介さんがいれば・・・こんな話でも聞いてもらえたのに。