第6章 気付けば彼のことばかり
「大事に至らなくてよかったよ、安室くんには助けられてばかりだね」
「当然の事をしているだけです」
「エラリーはしばらく休みだな、常連さんには悪いが」
「ポアロのシフトに余裕があるときは僕が開けましょうか?そうだかおりさん一緒に働きません?」
「はい?」
「だって暇なんですよね?」
「いいじゃないか。かおりちゃんや宗介くんの話はママからも聞いているよ。手伝ってくれるんなら、二階の家賃はしばらくいらない」
「それは・・・願ってもないお話しですが」
「事務所の一階なら、依頼があればすぐ対応できますし」
「たしかに」
なんと、探偵業のかたわら喫茶店で働く事になった。
事務所の家賃がかからないのは助かるが、降谷零と頻繁に長時間過ごす事になるかもしれない。
赤井さん、何て言うかなぁ・・・
って、そういえば赤井さんに帰るの遅くなるって連絡入れてなかった。スマホを見ればやはり不在着信とメッセージがあり。
院内で電話をかけるのも気が引けるので、一旦そのままにして鞄にしまった。
安室さんの車で事務所へ戻る。
事務所が近付いてきて気付いた。沖矢さんが前で立って待ってる。
「あの、沖矢さんがいます」
「僕は、ママが倒れた時に偶然居合わせたことにしましょう」
「はい」
「本当に沖矢さんはかおりさんのことを大事にされてるんですね」
「遅くなるって連絡入れなかったから・・・昨日の着信も無視したまんまだし・・・怒られるー」
事務所の前に車が止まると、沖矢さんが助手席の外に立ち、腕を組んでこちらを見下ろしてくる。怖い。
「今日はお別れのキスはできなさそうですね」
「残念です」
「また連絡します」
「はい」
わたしが車を降りると、沖矢さんと安室さんは小さく会釈し合ったように思ったが、睨み合っているようにも見えた。二人とも顔が、怖い。
でもすぐに笑顔に戻った安室さんはこちらに手を振り、車を発進させ、去っていった。わたしも笑って手を振り返す。
沖矢さんの顔付きはというと・・・怖いまま。
「かおりさん、何があったんですか。連絡も無いし心配しました。説明してください」
「すみませんでした!実は」
「シ・・・ッ」
あ、そうか盗聴・・・
エラリーのママの事だけを話しながら、沖矢さんの車で家に帰った。