第5章 お兄さんには内緒で
わたしがご馳走するって言ってたのに、安室さんに勝手に代金を支払われ、店を出た。
外は海風が強く、少し肌寒い。イルミネーションが煌めく海沿いを手を取られて歩く。安室さんの手が、あったかい。
「綺麗・・・」
「かおりさんの今日の格好も、すごくいいです」
「安室さんが言ったんじゃないですか。デートっぽい感じでって」
勿論、今日も男性(特に安室透)に好まれそうな服装をしてきてはいる。
「僕の好みすぎたので。脱がすのが惜しいな」
「安室さんが脱がしてくれるの?」
「あんまり可愛いこと言うと、今ここで裸にしますよ」
「ここは・・・嫌です」
「かおりさん・・・」
「でもいつの間にホテルなんか」
「さっきですよ。ほら」
先程張り付いていたホテルのロゴが入ったカードキーをひらひらと見せる安室さん。
「かおりさんがラウンジで調査結果まとめてたときに」
「全然気付きませんでした・・・」
「ちなみに、車の荷物もホテルへ預け済みです」
「嘘!?」
「本当です」
わたしだって何かに集中していて周りが目に入らなくなることはある。そういう時もある、けど。
今日のこの状況でそんなこと、有り得ない。
彼が消えていたことに全く気付かなかった・・・
「そんな怖い顔しないでくださいよ」
「ちょっと驚いちゃって」
「僕、透って名前でしょう?透けて見えるから透なんです」
「透けるのは嘘でしょ?」
「はい。それは冗談です。かおりさんが笑ってくれればいいなと思って」
先程のホテルに着くと、部屋へ向かうエレベーターで肩を抱かれて、額にキスをされた。
それだけ?と拗ねると、安室さんはクスクスと笑うだけで。
目的の階で降り、彼が部屋のドアを開けてくれた。
「えっ!すご・・・・い!」
大きな窓から見える、あまりにも綺麗な東京の夜景。さっきまで下から見上げていたものとは、格段に違って。
肩を抱かれていたことも忘れて窓際に駆け寄る。
「安室さん、最高です」
これは、ほぼ本音だ。
窓ガラスに映る彼の姿がこちらに近付いてきて、そっと身体に腕が回される。
こんな風にされたら、大抵の女性は彼の手に堕ちるんだろう。
実際わたしもこのシチュエーションに、胸は高鳴っている。