第5章 お兄さんには内緒で
結局わたし達は、対象者の泊まっているホテルの入口がなんとか見える位置のダイニングバーで遅い夕食を取る事となった。
「かおりさん、お酒飲みます?」
「一応仕事中ですからね・・・飲みたいけど」
「それなら飲みましょう。今日できる仕事はもう終わったんですから」
二人でビールを頼む。安室さんも飲むってことは、今日は車で帰るつもりはないのか。
そもそも安室さんの車も対象者の車と同じ駐車場に止めっぱなしなので、あと少しでわたし達も朝まで車を出せないことになるんだけど。
少し暗くて落ち着いた照明に、ゆったりセクシーな洋楽がかかる店内。
昼から何も食べていないお腹を満たして、その後もお酒を楽しむ。
「かおりさんは中々腕の良い探偵さんだったんですね」
「そうですか?わたしなんて全然・・・」
「尾行中の対象者との距離感、観察するポイントも、完璧です」
「安室さんがサポートしてくれたからです」
「僕はそばにいただけです。それに、気配を消すのだって上出来でしたよ。単純にその場を楽しんでいるようにしか見えなかったでしょうね」
「それ安室さんだってそうですよ!」
「僕の方が探偵としては先輩ですから。でも僕の仕事にも付き合ってもらいたいくらいです」
「人手が足りないなら手伝いますよ?いつも仕事なくて暇してますし」
なんだか普通に楽しくて、立場を見失ってしまいそうで恐い。
「今日は本当に沖矢さんには内緒で来てくれてるんですか?」
「泊まりなのは知ってますけど、安室さんのことは話してませんよ」
「かおりさん、彼氏はいないんですよね?」
「いませんて。こんな風に男性と出掛けるのって安室さんが久しぶりで。安室さんは彼女とか」
「いたらあなたにキスなんてしてません」
・・・先日の柔らかかった唇がフラッシュバックする。
「ああ、そうですよね・・・」
視線を落として肩をすくめる。
「かおりさん顔が赤いです。可愛い」
顔が赤くなったのは不覚だが、好都合だ。
「・・・お酒のせいです」
「それは残念。僕との事を思い出して赤くしてくれてるんだと思ったんですが」
「安室さん・・・」
困惑と、羞恥と、期待を織り交ぜたような表情で彼を見つめる。
「出ましょうか。ホテル取ってあります」