第1章 米花町2丁目21番地
昼過ぎの東京駅。
わたしは今日、東京に出てきた。
新幹線から東都環状線に乗り換えて、あっという間に米花駅。今日からここがわたしの暮らす街だ。
メッセージに添付された地図を見ながら徒歩で工藤邸を目指す。
子どもの頃に行ったことはあるけど、ハッキリとは思い出せない。
かなり立派な家だったはずだけど。
歩きながら昨夜の工藤夫妻からの電話の件を考える。
「もしもしかおりちゃーん?引っ越しの準備は大丈夫かしら?」
「はい!もうすっかり!」
「ならよかった!わたしも明日の夜にはそっちに行くから、東京着いたらしばらくウチで自由にしててね!早く会いたいわ!」
「ありがとうございます!でも一度職場に顔出してきたいし、役所も行かなきゃだし・・・夜にはいられると思いますので!」
「一日くらいゆっくりすればいいのにー。忙しいのね。
ん?はいはい、ちょっと優作に代わるわね」
「もしもし、久しぶりだねかおりちゃん」
「お久しぶりです、優作さん!明日からしばらくお家、お邪魔しますね」
「そのことなんだが・・・ひとつこちらの手違いがあってね」
「ええ・・・」
「明日から君のほかに、もう一人私の知り合いの男性もウチに住むことになってしまっていてね・・・」
「はい?」
「君が着く頃に、コナンという少年とその男性がそこを訪ねてくるから、まずその少年の話を聞いてやってくれないか」
「はい、でも一緒に住む方ってどんな方なんですか?場合によっては、ちょっと・・・」
「すまないね、もちろん悪い人間じゃないが、君がダメだと言えば、君の気持ちを尊重するつもりだよ。でも女性の一人暮らしは危険だし、彼が一緒なら安心して暮らせると思う。私も明日そちらに帰るから、久しぶりに一緒に食事でもしようじゃないか」
一緒に住む男性・・・どんな人なんだろう。優しくて、頼りになる人ならいいけど。
モヤモヤしながら歩き続け、住宅街に入り、“阿笠”という表札の家の前を通りかかる。
何か困ったら頼れと言われたお隣さんかもしれない。
当たりだ。隣に“工藤”の表札を発見。ここだ。
うーん、物凄く立派な洋館。
大きな門の前で立ち止まり、先日届いた工藤邸の鍵を取り出そうと鞄を探る。
そこに小学生くらいの男の子と男性が近づいてきた。