第30章 後始末とこれから
翌日のこと。
夕方の便で帰ってくる秀一さんを空港まで迎えに行こうと思ってたのに、「家で待っていればいい」と言われてしまい。
それなら張り切って料理を用意して待っていようと、昼過ぎからちょこちょこと夕食の用意をして。
夕方になり、まだかまだかと暇を持て余しながら待っていることしばらく。
玄関の鍵が開く音がして、秀一さんが帰ってきた気配がする。
「かおり、帰ったぞ」
「はーい!おかえりなさーい!」
パタパタと玄関まで出迎えに行くと。
秀一さんが身体の後ろに何か隠しているのが見える。さてはお土産かな・・・
「あれ?何か買ってきたんですかー?」
「ああ・・・かおりにやろうと思ってな」
靴を脱いで室内に上がってきた秀一さんが、後ろ手に持っていたそれをカサカサと音を立てながら前に差し出してきた。
それは深い赤色のバラの花束で。
思いもよらなかったプレゼントに拍子抜けしてしまって、口元を手で覆ったまま動けなくなる・・・
「ほら、早く受け取れ、要らんのか?」
「ほ、ほしいです!ありがとうございます!どうしたの、急に・・・」
ズイっと更に差し出された花束を両手で受け取ると、甘い香りがふわりと漂う。
本当にシンプルなバラの花束。でもすごく秀一さんらしいというか・・・
でもちなみに今日は誕生日でもなければ何かの記念日という訳でもない。
「たまにはいいだろう?・・・まあ、本当に渡したかったのは、こっちだ」
「っ?」
秀一さんがポケットから小さな箱を取り出してそれを開いて見せてくる。
その箱の中でちょこんと、でも堂々と鎮座しているのは、キラキラと光る透明な石のついた、指輪で・・・
「かおり・・・結婚しよう」
急に真面目にそんな事を言われ・・・目を見開いたまま言葉に詰まってしまう。
花束を握る手が震えてきて、目頭も熱くなってきた。
「・・・返事は無いのか?」
「あ、の・・・よろしくお願いします・・・」
左手を取られ、薬指にそっとキスをされて。箱から取り出した指輪が、ゆっくりとはめられる。そこから目が離せない。
「よく、似合うな」
「うれしい・・・ありがとう、ございます・・・っ」
「おい・・・また泣くのか」
「だって・・・っ」