第30章 後始末とこれから
「かおりさん・・・」
すぐ頭の上から降ってくる声に、顔が上げられない。
そのまま、柔らかく身体を包まれる。
離れなくてはいけない。彼の身体を押し返した。
でも零はビクともしない所か、今度はキツく抱き締めてきた。
「僕は・・・かおりさんのこと、いつの間にか好きになってた」
「やめて、言わないで」
「こんなに好きになるとは、思ってなかった」
「聞きたくない」
「聞いて欲しい」
「いや・・・っ」
「かおりさんを、愛してるんだ・・・」
「・・・なんで、今更・・・そんなこと」
“好き”だとか“愛”だとか。零とわたしの間では、たとえそんな想いが頭を過ぎったとしてもだ、それは絶対に口にしてはいけない言葉だと思ってた。
今まで築いてきたものがグラグラと揺れて、倒れて、壊れてしまいそうで・・・
「今言わないときっと後悔すると思ったから・・・でも僕はかおりさんを恋人から奪いたい訳じゃない。かおりさんが一番幸せになれる人と、幸せに過ごしていてくれればそれでいい。ただ、僕の気持ちをちゃんと伝えておきたくなった・・・」
「そんなのずるいよ・・・」
鼻の奥がツンとする。多分、堪えていないとまた泣いてしまいそう・・・
「ごめん・・・困らせてるよな」
「・・・すごく困ってるよ」
顎を持ち上げられ、顔を零の方へ無理矢理向けさせられる。
これは良くない。
「・・・キスしたい」
「や・・・」
「これで、最後にする・・・」
本気で嫌ならもっと抵抗出来るはず。でもいつも、それができなかった。
唇が重なった瞬間から涙が溢れて次々に頬へ流れていく。
“最後”って言ったのに。
何度も唇を合わせ、離れては、また吸い寄せられるように重なり、いつまで経っても終わりが見えてこない。
さっきから涙が混じってキスは塩辛い。
胸は縛り付けられたように痛い。
・・・わたしだって、多分、零のこと、好きだったと思う。そう考えないようにしてたし、これからもこの事は言うつもりも無い・・・打ち明けた所で、行き着く結論は決まってる。
「れ、い・・・もう、やめ、て・・・」
唇が触れたまま、震える声で拒絶した。
やっと離れた零の口からは、「ごめん・・・」と小さく呟く声が聞こえた。
「わたしこそ、ごめん・・・」