第30章 後始末とこれから
“安室透が死んだ”っていうのは、彼が米花町から姿を消す為の嘘だと思ってる。
だったら、昨夜の帰り際の彼の行動にも説明がつく。
いつもだったら、ママやマスターを見送ってから自分達が帰るのに、昨日彼は居酒屋を出るなり皆の前で一目散にタクシーを拾い一人先に帰ったのだ。
皆に“安室透はタクシーに乗って帰っていった”とわざと記憶させる為なら、有り得る話だ。
でも絶対交通事故に遭っていないとも言い切れない。
小さなカードの端を握り締めたままキッチンでしばらく立ち尽くし・・・
思い立ってママに電話をかけ、安室透の遺体が保管されている場所を聞き。最低限の身なりを整えて家を飛び出した。ちなみにママは、今ちょうど警察から帰るところだそう。
彼の遺体は米花町から程近い警察署で保管されているらしい。
タクシーに飛び乗り、朝の通勤ラッシュにイライラさせられながらも・・・なるべく冷静に意識を保ちながらそこへ向かったつもりだ。
警察署の前にタクシーが着き、わたしは車を降りるなり建物の入り口を見据えて歩き出す。
でも「かおりさん!待ってください!」と、真後ろから男性の声で名前を呼ばれ、腕をグイッと掴まれ、歩くのを止める。
こんな時に誰・・・と後ろを睨むように振り返る。
と、そこに居たのは零の部下の風見さんで・・・全身の力が抜けそうになった。
掴まれていた腕を離され「案内します・・・」と、力なく声を掛けられ。
「これってどういう事なんですか?」と彼に聞くけど、無言を貫かれる・・・
風見さんに連れられるまま、警察署内のとある部屋の前に着いた。
部屋の前に立っている警察官と思しき男性と風見さんは何やら小声で言葉を交わし。
風見さんが部屋の扉をノックし、開ける。
「失礼します、風見です。かおりさんと一緒です」
そして入った薄暗い部屋の中。
腰程の高さの長方形の台の上に、布を被せられた何かが横たえられているように見えるのは・・・遺体?零なのか?
「ねえ風見さん・・・本当どういう事なんですか・・・」
「自分の口から言えるのは・・・安室透という人物は、死んだという事だけです」
「じゃあ零は?」
「それは・・・っ」
台の上の布を捲ろうと端をつかむ。バサりと引けば、その下では零が目を閉じて横になっていた。