第29章 捕われた子猫
「とは言っても、今日俺たちに出来る事はもう無い・・・」
「そうねぇ・・・皆疲れてるでしょ、帰って休んだら?」
「そう、しますか・・・」
秀一さんだって全然寝てないし、皆も相当疲れてるんだろう・・・帰る話が出た途端、空気がどんより重くなった。
皆が帰り支度を始めた時、工藤邸に来客があり。誰かと思えばそれは零で。
わたしは秀一さんの顔をハッと見る。赤井秀一として対面しても大丈夫なのか。
零は皆の集まっている部屋に入ってくるなり秀一さんに気付いたようで。一瞬引きつったような顔をした。
「お疲れ様でした皆さん・・・今回は本当にご協力ありがとうございました・・・それからかおりさんに」
「あっ!それ!」
「一旦公安が押収したんだけどな、無いと困るだろうし持って帰ってきた。このカバン・・・使ってるの見た事なかったけど、かおりさんのだろ?」
零から自分の鞄とスマートフォンを受け取った。
「うん!ありがとう!よかったー・・・」
「でもかおりさんコレいつの間に買ったんだ?」
「え?ああ・・・もしかして覚えてるの?」
「よく覚えてる。かなり欲しそうにしてたからな。実は後でコッソリ買ってプレゼントしようと思ってたんだけど、その時にはもう在庫が無くなっててね」
「そっか・・・あの後ね、ネットで探して買ったの!」
この鞄は・・・まだ安室透の正体が何者なのか分かってなかった頃、わたしと安室透とで出掛けた先で気になってた鞄で。
そのわたし達の後ろを尾行してた秀一さんがコッソリ買ってくれた物だ。
秀一さんと零が同じような事をしようとしてたなんて・・・変なの。
秀一さんが珍しく声を上げて笑い出す。
「赤井・・・何が可笑しい」
「いや、別に・・・帰るぞ、かおり」
「は、はい!」
「待て赤井、かおりさんは僕が送る」
「生憎だが俺達は帰る方向が同じだからな、かおりは俺と一緒に帰った方が合理的だ」
「・・・やっぱりお前」
「行くぞ、かおり」
玄関へ向かって歩き出した秀一さんの後についていく。気まずいのは、わたしだけか。零の顔を真っ直ぐ見れない。
「待って、かおりさん」
「っ?」
零に腕を掴まれた。