第29章 捕われた子猫
わたしは“院長がボスと知り合いで融通が効く”らしい病院に連れて行かれ、着くなりすぐに検査着に着替えさせられた。
嫌々ながら大人しく全ての検査を受け終わって。
「検査結果が出るまでベッドで休んでいてください」とご丁寧に個室の病室をあてがわれたのは有難いけど・・・
気になる事が多すぎて寝付けないし、そういえばわたしの荷物はさっきのホテルに置きっぱなしだし。
誰かに連絡を取ろうにもスマホはたしかベルモットのポケットの中だ。警察に調べられてたら・・・やだなぁ・・・別に見られて困るものがある訳でもないけど・・・
ベッドに横になる。消毒薬の匂いが微かに漂う白っぽい室内に一人きり。ぼんやりと天井を眺める。
どれくらいそうしていただろうか。体感的にはかなり時間が経った気はするけど、案外そうではないのかもしれない。
廊下をバタバタ走る音が聞こえたと思ったら、勢いよく扉が開いて、ホテルマンの格好の秀一さんが病室に入ってきた。それにも驚いたけど、何より驚いたのが、秀一さんが顔に変装をしていない事で・・・
わたしはガバッと起き上がり、顔の事を指摘しようと思ったけど、秀一さんはこっちに駆け寄るなり身体を強く抱いてきて。これでは息をするのがやっとだ・・・
前にも嗅いだことのあるような煙のニオイが鼻につく。秀一さん、銃を使ったのか。
「かおり・・・すまなかった、俺のせいだな・・・」
返答しようにも苦しくて、秀一さんの背中をバシバシと叩く。
しばらくすると腕の力が緩んで・・・彼は隣に腰掛けてくる。
「秀一さん・・・よかった・・・無事で」
「それは俺の台詞だ」
髪を撫でられ頬を触られ、唇が重なって。
いつもより優しい顔をした秀一さんに、なんだか胸がじんわり熱くなってくる。
「あの、秀一さん・・・顔、変装・・・いいの?」
「ああマスクか?ジンに撃たれて裂けてしまってな、剥がした。まあもう隠れる必要も無い」
「撃たれたの!?ケガは!?」
「心配するな、掠っただけだ」
「そう・・・よかった・・・それで・・・何がどうなってそうなったんですか・・・」
「まだ俺も全てを聞いた訳では無いからな・・・検査結果はいつ出る?」
「さあ・・・」