第29章 捕われた子猫
「ジン!殺してはダメ」
ベルモットの一声で、張り詰めていた空気が裂けた。
「・・・何故庇う」
「裏切ったって証拠も無いのに勝手に殺したらラムだってなんて言うか・・・」
「ベルモット・・・今日はヤケに情に厚いな」
「そう?ジンこそ、今日はせっかち過ぎるんじゃない」
「黙れ」
・・・再び緊迫した時間が訪れる。
その時。部屋のチャイムが突然鳴り、ドアがノックされる。
「ベルモット、見てこい」
「・・・いいけど・・・その物騒なモノ、見えないようにしてよね」
入口まで様子を見に行くベルモット。
ジンは銃を構えたまま部屋の隅、入口からの死角に身体を隠し。
ベルモットが扉を少しだけ開けると、「お客様大丈夫ですか?大きな物音がしたと他のお客様からご連絡がありまして。先程お部屋に電話をさせてもらったんですが繋がりませんでしたので直接お伺いに・・・」と男性の声が聞こえてくる。ホテルの人間のようだ。
「悪かったわね・・・ちょっと身内で揉め事になっちゃって、もう大丈夫よ」
「そうでしたか。それは大変失礼致しました。ではこれで」
扉が閉まりかけた瞬間、その扉が今度は大きく開かれた。なぜかわたしも、ホテルマンとしっかりと目が合った。
「あともうひとつ!忘れておりました。お部屋の電話機の調子が悪いようなので、新しい物と取り替えさせて頂きます」
「困ってないから結構よ。っ・・・!」
「ですが、いつ必要になるか分かりませんから」
長身のホテルマンが大きな手の平でベルモットの口を覆って、壁に押さえ付けながら室内に入ってきた。
ジンには見えていないが、それに気付いた零は入口へ向かって歩き出し、「今は必要ありませんから、僕達がチェックアウトしたら替えてください」とホテルマンに近付いていく。
ホテルマンは交換の電話機なんて持ってない。
でも胸ポケットには見覚えのあるペンが刺さっており。
彼はそれを取り出すとペン先をベルモットの首筋に・・・刺した。
すぐにズルズルとベルモットの身体は下がり、床に突っ伏した。
・・・ってことはもしかしてこのホテルマン、秀一さん?体格はたしかに似てる。
恐る恐るそちらに近付くと、ドアの方を顎で促される。“外へ出ろ”と言われているみたいだ。
零と目を見合わせ、頷き、部屋を飛び出した。