第29章 捕われた子猫
「かおりさんが関係無い事は分かっただろ?拘束を解いてやってくれないか」
「・・・別にいいわよね、ジン」
「そんな只の小娘如きもういい・・・だがカタがつくまではまだここに居させる」
ベルモットがナイフを手に近付いて来て・・・わたしはずっと握りしめていたペンを咄嗟に椅子の背もたれと座面のシートの隙間に隠した。身体をズラして腕を差し出せば、ようやく拘束が解かれる。
その瞬間“Good luck”と小さく聞こえた。いや、聞き間違いかもしれないけど。
前に向き直りつつ片手は後ろに回し、ボールペンを隙間から取り出す。服の袖口から中へと入れて回収完了。(今は針は引っ込めてある)
「かおりさんすみません、こんな事に巻きこんでしまって」
近寄ってきた零につられて立ち上がると身体を抱きしめられて。
耳の上の方で小さく囁かれる。
「皆動いてる、もう少しだ」
嬉しいのと驚いたので絶対表情に出てしまったと思うけど・・・零の身体に隠れて誰にもその顔は見られずに済んだ。
「バーボン、お前はまだ疑いが晴れたわけじゃないぞ、何故最近あそこを彷徨いていた?」
「それならジン、そこが何処なのかまずは教えてくれないか?僕には全く心当たりがない。そこまでしてお前達が隠すその場所、物凄く興味がある」
「バーボン・・・」
「言わないのならかおりさんに聞くだけだ。なあ、かおりさん?昨日どこに行ってたんだ?」
「女、喋るな」
「・・・っ」
再びかなりイラつき出したジンに対し、余裕の表情の零。
わたしだったら震え上がってしまうと思うけど・・・
「ジン・・・お前達は一体何を隠そうとしている」
「下っ端には関係無い」
「・・・ならどうしたら僕の疑いは晴れる」
「お前は元から気に食わん、組織に入り立ての頃から俺へ媚びるどころかいつもスカしてやがる・・・」
「そう見えていたのならすまない、僕はこういう性格なんだ」
「そういう所が気に食わんのだ、助かりたければ今俺にこの場で忠誠を誓え」
「僕は誰にも仕えない」
「だったら死んでもらおうか、そのふざけた口が二度と開かないようにな」
ジンが銃のスライドをガチャリと引き・・・零へと銃口を向ける。
場の空気が一瞬にして冷えて凍り付く。
・・・こんなの嫌だ、見たくない。