第29章 捕われた子猫
「かおりさんは無関係だ。すぐ解放しろ」
「それは出来ん」
「何故だ」
「ここまで俺達のことを知ってしまったんだ、タダでは返せない」
「勝手に関係のない人間を攫っておいて何をバカな」
「おい、口の利き方には気を付けろよ、自分の立場が分かっているのか?」
零とジンの言い争いは輪をかけてヒートアップしていく。
ベルモットはと言うと・・・銃口は零に向けたままだけど、呆れたような面持ちで全く違う方向を向いていて。
そのベルモットと、目が合った。
銃を下ろした彼女は、一歩、二歩、こちらに近付いて来て、わたしの顔を覗き込んでくる。
間近でみる彼女の整った顔立ちは作り物のようで。綺麗と言うよりも恐ろしい。
「ねえ?どうして昨日あの店に行こうと思ったの」
「どうして・・・静かな所で美味しいお酒が飲みたかっただけなんです」
「本当に?」
「本当です・・・結局断られて、違うお店に行きましたけど」
盛大な溜息を吐き、ベルモットはわたしに背を向け。
未だに言い争いを続ける零とジンの間に割って入り、冷めた声で話し始める。
「この子、やっぱり嘘は吐いてないわよ・・・ジン・・・言ったじゃない、考え過ぎだって」
「疑わしきは全て排除するのが俺のやり方だ」
「だからってこんな一方的なやり方・・・やっぱり私は好きじゃないわ」
「どうしたベルモット・・・お前もあの世へ行きたくなったか」
ジンも上着の内ポケットから銃を取り出し、その先をベルモットへと向ける。
「別に・・・何の罪もない人間が手に掛けられるのは見ていて気分が悪いだけ・・・」
「全く・・・女はこれだから困る」
「・・・ねえジン、この子は私に任せてくれないかしら」
「また勝手な事を・・・どうするつもりだ」
「私の下で使うのよ、この容姿なら資金集めの客寄せにも使えそうじゃない」
「おい!かおりさんにそんな事させるな!これ以上組織と関わらせたら」
「バーボンは黙ってて。ねえ、いいでしょ?ジン・・・」
「・・・少しでも組織に不利益な事態があれば・・・分かってるだろうな」
「そうなったら仕方ないもの、好きにすればいいわ」
・・・わたしはベルモットに命を助けられたのか?
でもそれって、宗介さんみたいにどこかに監禁されるってことなのか。